ユーラシア・ウォッチ 第126号【秋野豊ユーラシア基金】
発行日時: 2008/2/16----------------------------------------------------------------------
第126号 2008年2月16日
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◇Contents◇
・秋野豊賞、ただいま募集中です!
・エッセイ/ゆーらしあの風
「対立」から「対話」へ(古澤嘉朗)
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■第10回秋野豊賞、募集中■
このほど第10回秋野豊賞の募集要項が発表されました。「秋野豊賞」は、
欧州からアジアまでユーラシア大陸のいずれかの紛争や安全保障の問題に
ついて、調査・研究を行う意欲を持った方に対する助成制度です。応募の
締め切りは2008年5月9日(金曜)ですので、奮ってご応募下さい。詳細は
基金ホームページをご覧下さい。http://www.akinoyutaka.org
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■エッセイ/ゆーらしあの風■
「対立」から「対話」へ—草の根レベルにおける平和構築の一例
古澤嘉朗(第9回秋野豊賞受賞、広島大学大学院博士後期課程在籍)
「平和についてモロ・イスラム解放戦線(MILF)とフィリピン政府の手のみ
に委ねていてはいけない。軍とMILFの戦闘員間のように、ミンダナオの人々の
間にも目にみえない争い(unseen wars)が続いているからである。」このよう
に語るのはピキットに住むロバート・レイソン神父(Fr. Robert Layson)で
ある。高速道路とは名ばかりの、街灯のない、ところどころに穴のあいた、舗
装された二車線の一本道。そんな一本道をパジェロで2時間ほど飛ばしたとこ
ろにピキットはある。ピキットは中部ミンダナオの北コトバトという地方に属
する人口が60,000人弱ほどの自治体であり、人口の約6割とされるムスリムと
約4割とされるキリスト教徒が共存している。
見渡す限り一面の緑、そして収穫された米やトウモロコシを道端で干す人々。
一見、戦闘とは無縁にみえるのどかな田園地帯で政府軍とMILFが衝突し約
45,000人の国内避難民が発生したのは2003年のことである。それ以前にも1997
年には30,000人、2000年には41,000人、そして2001年にも24,000人が国内避難
民となっている。表面上は平穏にみえる現在の「日常」は、和平交渉が進行中
であり停戦中であるということを鑑みると、政治的な意志により保たれており、
言い換えればいつやぶられるかわからない紙一重の「日常」といえる。
ミンダナオの紛争はフィリピン政府による国家建設の過程における「上から
の統合」に対しての反発と捉えることもできるが、ミンダナオを始めとする、
このような近年にみられる民間人が被害者であると同時に加害者という「大衆
化」された武力紛争は、戦闘員だけではなく、一般の市民さえも二極分化させ
てしまう。それはミンダナオの場合は、端的にいえばキリスト教を信望するも
のは政府軍、イスラームを信望するものはMILFという構図であるといえる。身
近な具体例を挙げるならば、父親が目の前でMILFの兵士に射殺され、それ以来、
地面に落ちている空の薬きょうを父親の仇打ちの際に使うと集めている小さな
子供もいれば、将来は軍と戦うために反乱軍の兵士になりたいというムスリム
の子供達もいるし、また反乱軍の兵士と戦うために軍の兵士になりたいという
キリスト教の子供達がいる。
このような状況下において、政治的なレベルにおける和平合意は武力紛争を
止める1つの処方箋ではあるが、それが社会の全ての歪みを治癒する万能薬で
はないことは明らかである。和平合意は人々が平和を模索することを可能にす
る「枠組み」を提示し、その社会がどのような方向へ進むのかを示す道標的な
役割を果たす重要なものではある。だが、和平合意が締結されれば武力紛争は
終焉を迎えるが、ミンダナオに住む人々の間には「目に見えない争い」は続く。
ミンダナオ、特にピキットの事例から教訓を一つ学ぶとすれば、それは草の
根レベルにおける意思の疎通を図る「対話(dialogue)」の重要性である。
「目に見えない争い」とは、上述のミンダナオの少年たちの例にみられるよう
な憎悪、差別、信頼の欠如や不信感などに象徴される「自己と他者」の敵対的
な乖離を指している。従来の開発支援を介して、武力紛争による「目にみえる」
物理的被害は橋を架けたり、また住宅・水・電力などのライフラインを復旧さ
せたりすることにより対処することができるが、「目に見えない争い」は従来
の開発支援を通して直接的に対処することはできない。だが、この「目に見え
ない争い」が存在し続けるということは火種がくすぶり続けることを意味し、
この火種が武力紛争に発展する可能性は常に潜在することになるのである。
ピキットでは、ローカルNGOの協力のもと、地元の人々による平和の文化・
平和教育セミナー(例:歴史理解、紛争分析など)、宗教間対話などを介して
「対話」は進められた。最近ではラマダン明けのイードの際に、ムスリムの人
々がキリスト教徒の人々を招いたり、またクリスマスの際にはキリスト教徒の
人々がムスリムの人々を招待したりするなど変化の兆しは少しずつ見えている
ようではある。
近年、UNDPなども注目しているこの「対話」というツール・概念だが、1945
年以降の欧米におけるカール・ドイッチュ(Karl Deutsch)をはじめとする文化
交流を巡る国際関係論の流れを汲んでおり、日本ではまだあまり馴染みのない
豪州の元外交官であるジョン・バートン(John Burton)や、ハーバード大学の
ハーバート・ケルマン(Herbert Kelman)をはじめとする紛争解決論の先駆者の
研究により洗練された(ている)手法である。アメリカン大学のロナルド・フィッ
シャー(Ronald Fisher)などが学術的な研究を続けており、2007年には国際民
主化選挙支援機構(International Institute for Democracy and Electoral
Assistance)が実務者用の「対話」に関するハンドブックを作成している。
「対話」とは「平和的に社会に変化をもたらす手法」であり、その要は「ヒ
トとヒトの繋がり(connection)を形成すること」である(注1)。端的にい
えば、それは「自己(わたし)」と「他者(あなた)」の乖離を縮めることで
あるが、お互いに見解を述べるのみで立場を譲らない討論のような「対立」と
いう言葉が象徴するようなコミュニケーションから、双方の見解を理解し、共
感し、新しい第3の選択肢を共に模索するという「対話」という言葉に象徴さ
れるようなコミュニケ—ションへ移行することが理想とされる。「言うは易し、
行うは難し」ともいうが、対話をする人々は過去と向き合わざるをえないので、
例えば、私がカトリック・リリーフ・サービスのセミナーで会った一人の老人
はその重要性を認めつつも、「とてもつらいプロセスだ」と言って経験談を語っ
てくれた。
草の根レベルにおける「対話」という試みは、ミンダナオにおける先住民族
の土地所有権(ancestral domain)を始めとする政治的な解決には直結しない
という批判もあれば、草の根レベルにおける「対話」は必ずしも政府レベルに
おける交渉に還元されないという批判もある。これらの批判は真摯に受け止め
られるべきではあるが、その違いは長期的展望か短期的展望のどちらにその人
が重きを置いているのかということであるともいえる。
和平交渉の締結には草の根レベルの対話は直接的な影響はないのかもしれな
い。だが、英国のブラッドフォード大学平和学部の初代学部長のアダム・カー
ル(Adam Curle)が指摘するように「交渉によって達せられた解決とは便宜的
なものである可能性もあり、心の変化(change of heart)を反映したもので
はないかもしれない...心の変化が伴わなければ、解決したといってもそれ
を保障するものはなにもないのである」(注2)。相手の顔がみえる草の根レ
ベルにおける「対話」は、異なる集団が一つの社会に平和的に共存する際に必
要な土壌を築く役割を担うことができる手法の一つであるといえる。
レイソン神父はこのような草の根レベルにおける平和構築活動を、種を蒔く
作業に例えている。「すぐには結果はみえないかもしれないが、それは何も起
きていないということではない。時とともに少しずつ芽を出し、いつかはきっ
と実を結ぶであろう」と。
(注1)Bettye H Pruitt and Katrin Kaufer (2004) Dialogue as a Tool
for Peaceful Conflict Transformation. New York: UNDP, Democratic
Dialogue Regional Project Working Paper No. 2.
(注2)Adam Curle (1995) Another Way: Positive Response to
Contemporary Conflict. Oxford: John Carpenter.
(ふるざわよしあき)
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◆新刊書・論文紹介
冒頭の「○」は単行本や雑誌、「・」は雑誌に掲載された論文を意味します。
価格は原則として総額表示としております。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜《アジア》〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
○『海外事情』(拓殖大学海外事情研究所) 第56巻2号(2008年2月)
特集:第17期共産党大会後の中国
・天児慧「中国の政治動向と国家戦略」
・浅野亮「中国の対外政策」
・茅原郁生「17大後の国防近代化政策」
・・・などを収録。
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◆編集後記
昨年5月からのウォーキングの成果で、デジタル体重計による「体内年齢」
の判定は、ほぼ「30歳代後半」で推移しています。10近く実年齢より若い
ことになります。今年に入って、新たに「脳内年齢」が加わりました。昨年の
クリスマスに妻からニンテンドーDSというゲーム機を賜り(なぜだろう?)、
クイズ形式の脳トレーニングにとりくんでいる次第です。◆告白しますが最初、
「50歳」と判定されてしまい大変なショックを受けました。学者のはしくれ
として、いくらなんでも「脳内年齢」が実際の年齢を上回るなんて、口が裂け
ても言えません。それ以来、暇をみつけては必死にとりくんだところ、一週間
ほどで「40歳」を突破し「30歳代半ば」にたどりつきました。それでホッ
としたのも束の間、どうも運動不足がたたったのか今度は「体内年齢」判定が
「42歳」と悪化してしまい、あわててウォーキングを再開しました。機械は
正直だ・・・◆この分だといつかきっとウォーキングをしながら、なにやらピ
コピコとニンテンドーに取り組む日が来そうで怖いです。◆次回の配信は3月
1日頃を予定しています。 (広瀬)
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ユーラシア・ウォッチ 第126号(2008年2月16日発行)
発行元:秋野豊ユーラシア基金(代表 秋野洋子)
〒151-0061 渋谷区初台1-51-1 初台センタービル803
編集責任者:広瀬佳一・湯浅 剛
郵便振替02740−2−3000
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