ユーラシア・ウォッチ 第124号【秋野豊ユーラシア基金】
発行日時: 2008/1/15
since June 2002
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◆◆ ユーラシア・ウォッチ ◆◆
Eurasia Watch
編集・発行:秋野豊ユーラシア基金
http://www.akinoyutaka.org
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第124号 2008年1月15日
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◇Contents◇
・第10回秋野豊賞、募集はじまる!
・エッセイ/ゆーらしあの風
マケドニアの安定化と警察アクション(中内政貴)
・イベント情報
秋野豊先生没後10年・追悼研究会(第1回)[1月31日]
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■第10回秋野豊賞の募集開始■
このほど第10回秋野豊賞の募集要項が発表されました。「秋野豊賞」は、
欧州からアジアまでユーラシア大陸のいずれかの紛争や安全保障の問題に
ついて、調査・研究を行う意欲を持った方に対する助成制度です。応募の
締め切りは2008年5月9日(金曜)ですので、奮ってご応募下さい。詳細は
基金ホームページをご覧下さい。http://www.akinoyutaka.org
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■エッセイ/ゆーらしあの風■
マケドニアの安定化と警察アクション
中内政貴(第9回受賞者、大阪大学大学院生)
第9回秋野豊賞を頂き、昨年11月4日から3週間にわたり南東欧のマケドニア
へ調査に訪れた。マケドニアは、旧ユーゴスラヴィアから平和裡に独立し、ま
た初の国連PKO予防展開が行われるなど、1990年代は紛争予防の成功例として
注目されてきた。しかし、隣接するコソヴォでの紛争の余波もあり、2001年に
は少数民族アルバニア人(マケドニア人口の約25%を占め、コソヴォ多数派の
アルバニア人との結びつきも強い)の武装組織「民族解放軍(NLA)」が軍や
警察を攻撃し、本格的な内戦の寸前にまで至った。私の調査の目的は、この紛
争後、アルバニア人の地位を大幅に向上させる和平合意が結ばれ現在までなん
とか紛争再発を免れている原因を少しでも明らかにすること、そしてそこへの
EU加盟プロセスの影響を浮き彫りにすることである。しかし、事態は一筋縄で
はいかない。それを象徴するような事件に出くわした。
調査4日目のこと。大規模な「警察アクション」が行われたという情報が入っ
た。ある村に潜伏していたアルバニア人武装集団を警察が摘発したというので
ある。これは画期的な出来事であった。2001年の紛争以来、マケドニアの全て
の事項は民族色から逃れられなくなっていた。アルバニア人が多い地域で警察
が捜査や逮捕を行えば、「マケドニア人警官がアルバニア人を不当に迫害した」
といった非難が起こり、警察はその地域に立ち入ることさえ難しくなるのが常
だった。特にアルバニア人武装集団は、ほとんどアンタッチャブルな存在だっ
た。2004年など、首都スコピエ市行政区内の村が武装集団に占拠される事態が
起きたが、警察は動かず、アルバニア人政治家による交渉で武装集団が何処か
へ退去するのを待つばかりであった。下手に武装集団を刺激するとまた紛争が
再発するかも知れない。しかも、少数民族の平等への闘争に名を借りた紛争が。
そんな恐れが支配していたのである。
しかし今回は断固とした行動がとられた。やり方も半端ではない。装甲車を
繰り出し、機関銃で武装した800人以上の警察特殊部隊を軍のヘリで運んでの
急襲、コソヴォの国際駐留軍事部隊KFORに協力を要請し退路も断つという周到
ぶりだった。しかも民族混成の部隊が用いられていた。そこには、2001年の紛
争でNLAのゲリラ戦法に翻弄され続け、慌てて外国に武器の支援を要請してい
たマケドニア政府の姿はなかった。結果、銃撃戦で武装集団側の6人が死亡、
13人が逮捕された。この中には、コソヴォの刑務所から脱獄した犯罪者も含ま
れており、迫撃砲などを含む多くの武器が発見された。一般住民への被害は微
少で、住民も武装集団の脅威から解放されたことを喜んでいるといった情報が
聞かれた。現地で監視にあたった欧州安全保障協力機構(OSCE)の信頼醸成担
当官(元米軍人)は私に「マケドニアの独立後初めてのプロフェッショナルな
仕事だった」と讃えて見せた。マケドニアは、もはや武装集団の暗躍する余地
のない国、そして、その先には政治問題を暴力で解決する余地も必要もない国
へと変わりつつあるのかも知れない、少なくとも当初はそのように見えた。
しかし、やはりそう簡単にはいかないようである。数日経つと、「警察が無
関係の市民を拷問した」「故意にモスクが破壊された(アルバニア人の多くは
イスラム教徒)」「マケドニア人によるアルバニア人への抑圧だ」といった主
張が、アルバニア人政治家(ただし野党のみ)やメディアから盛んに聞かれる
ようになった。もちろん警察側に行き過ぎがなかったか、客観的な検証がさら
に行われる必要はあるが、先述のOSCEの人間は故意に過剰な暴力がふるわれた
可能性を明確に否定している。しかし、事実がどこにあるのかに関わらず、こ
うした民族主義色の強い見解は、繰り返し述べられるうちにアルバニア人にとっ
ての真実を作り上げていくのかも知れない。コソヴォとの国境付近に現在も潜
伏中と言われる元NLA指揮官などは、今回の事態はアルバニア人に対する「戦
争」の開始であり、NLAは再び武力闘争に備えていると宣言した。民族主義に
よる動員と見るべきか、あるいは日頃から積もっている民族間の不信感がこう
した主張を不可避にしているのか。
また、そもそも今回の摘発も、アルバニア系の与野党間の権力闘争という側
面もあるという。確かに、連立与党の「アルバニア人民主党(DPA)」の同意
がなければ、アルバニア人地域でのこうした行動は不可能なはずである。とす
れば、DPAが警察を使って、対立するアルバニア人野党「統合のための民主同
盟(DUI:2002年にNLAを母体として生まれた政党)」の「実働部隊」を破壊し
ただけなのだ、という説は実に説得力がある。DUI側による将来の報復も予想
される。またDPAも「実働部隊」を持ち様々な密輸や汚職などに手を染めてい
ることはほぼ常識となっており、現在のところ、警察がこれを取り締まること
は期待できない。やはり、民主的で安定したマケドニアの実現はまだ遠いと言
わなければなるまい。
幸いなのは、現在のところ、不安定化を拡大させるような国際的環境がない
ことである。コソヴォからも、地位の問題が大詰めを迎えているこの時期に、
隣国でアルバニア人に関係した不安定化が起こるのは望ましくないというメッ
セージが発せられている。また、米国国務省は今回の摘発を歓迎する声明を出
しており、武装集団側を擁護する声は国外のどこからも聞かれない。ただ、
2001年の紛争もこのような一見小さな衝突から始まり、当初はNLAも犯罪者集
団か小規模なテロリスト集団程度に認識されていたのであり、今回も対応を誤
れば大規模な衝突へとつながっていく可能性も否定できない。コソヴォ独立後
の悪影響を憂う声も現実味を増すばかりである。ほんのしばらくは小康状態が
期待できるマケドニアに早く真の安定が訪れることを望んでやまない。
(なかうち まさたか)
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◆イベント情報
秋野豊先生没後10周年・追悼研究会(第1回)のご案内
本年2008年は、スラブ・ユーラシアを専門領域とする国際政治学者、秋野豊
・前筑波大学助教授がタジキスタン共和国において逝去されてから10年目にあ
たります。秋野先生は1998年4月以来、外務省から国連タジキスタン監視団に
政務官として派遣され、PKO活動に従事しておられましたが、同年7月、搭乗す
る国連車が山岳地帯を走行中に武装集団による待ち伏せを受け、同乗の軍事監
視員・運転手とともに凶弾にたおれました。
早稲田大学政治経済学部では、本学部卒の秋野豊先生の没後10周年を記念し、
ユーラシアの平和と紛争をテーマとして、秋野先生を追悼する連続研究会を開
催いたします。第1回目は、防衛研究所の湯浅剛先生と筑波大のティムール・
ダダバエフ先生をお招きし、ロシアおよび中央ユーラシア地域の平和と紛争に
ついての研究会を下記要領にて行います。本研究会は関心をもつ全ての方々に
開かれていますので、皆様お誘いあわせのうえ、ご参加くださいますようお願
い申し上げます。また、研究会後には懇親会を予定していますので、こちらの
ほうもふるって御参加ください。
記
日時 2008年1月31日(木)、午後4時〜6時
場所 早稲田大学・西早稲田キャンパス 3号館2階 第2会議室
(地下鉄・早稲田駅より徒歩5分、JR線・高田馬場駅より学バス利用
終点・早大正門駅より徒歩1分)
キャンパス地図はこちらのホームページをご覧ください
http://www.waseda.jp/jp/campus/nishiwaseda.html
報告者・タイトル
・湯浅剛(防衛研究所)「ロシアの中央アジアへの選択的介入:経緯と評価」
・ティムール・ダダバエフ(筑波大学)「中央アジアの地域統合と水問題」
※本研究会に関する問い合わせ・ご連絡は、早大政経学部・久保慶一
(keiichi@msd.biglobe.ne.jp)までお願いいたします。会場の準備お
よび懇親会の会場手配の都合上、御参加を予定されている方は、上記
メールアドレスまで御一報いただきたく存じます。
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◆編集後記
明けましておめでとうございます。本メルマガは2002年6月にスタートして
5年半となりました。どうぞ引き続き本メルマガをよろしくお願い申しあげま
す。◆今年は秋野豊氏がタジキスタンで亡くなられてから10年目にあたります。
研究者として、人間として、秋野豊氏が遺したものは何だったのか、10年目の
今年あらためて見つめ直してみたいと思います。そこで秋野豊ユーラシア基金
は7月18日(金)の午後3時から、早稲田大学小野記念講堂にて「ユーラシアの
平和構築を考える―秋野豊の遺したもの」と題したシンポジウムを開催します。
◆シンポジウムにあわせて、これまでの秋野賞受賞者や秋野豊ユーラシア基金
関係者による著書『ユーラシア大陸の平和と紛争』や、『味わって、交わって、
群れず−秋野豊追悼集PartII』の刊行も予定しています。◆一つの節目となる
年がはじまりました。今年もよろしくお願いします。 (広瀬)
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ユーラシア・ウォッチ 第124号(2008年1月15日発行)
発行元:秋野豊ユーラシア基金(代表 秋野洋子)
〒151-0061 渋谷区初台1-51-1 初台センタービル803
編集責任者:広瀬佳一・湯浅 剛
郵便振替02740−2−3000
★ご意見・ご感想はinfo@akinoyutaka.org までお寄せください。
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ます。送付先変更・配信解除は、下記のURLからいつでも可能です。
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