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ユーラシア・ウォッチ 第74号【秋野豊ユーラシア基金】

発行日: 2005/10/2

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         ◆◆ ユーラシア・ウォッチ  ◆◆
              Eurasia Watch

         編集・発行:秋野豊ユーラシア基金
                     http://www.akinoyutaka.org
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 第74号                        2005年10月2日
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              ◇Contents◇

    ・エッセイ/ゆーらしあの風
      権威主義的統治が強まるカンボジア(山田裕史)
    ・文献紹介
      鐸木・平岩・倉田(編)『朝鮮半島と国際政治』(小笠原高雪)

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■エッセイ/ゆーらしあの風■

権威主義的統治が強まるカンボジア

                上智大大学院・カンボジア市民フォーラム
                   山田 裕史(第7回秋野豊賞受賞)

 カンボジアでは2006年1月、現体制下で初となる上院議員選挙が実施される。
今年5月に野党サム・ランシー党が国会審議をボイコットするなかで制定され
た上院議員選挙法によれば、選挙権を持つのは国民議会議員(123人)とクム
・ソンカット評議会(=地方評議会)議員(11,261人)である。これらの議員
を所属政党別にみてみると、68.3%が与党第1党であるカンボジア人民党、
19.7%が与党第2党のFUNCINPEC党、12.0%が野党サム・ランシー党に所属してい
る。選挙権を持つ上記の議員は通常、自分が所属する政党に投票すると考えら
れるため、人民党が第1党となることは明らかである。
 上院議員選挙法の制定過程において、選挙監視NGOをはじめとするカンボジ
アの市民社会は、18歳以上の一般国民にも選挙権を与えるべきことや、無所属
候補の出馬が認められるべきことなどを再三にわたって政府に働きかけてきた。
しかし上述のように、選挙をする前から既に結果がみえているような選挙法が
制定されたため、カンボジアの2大選挙監視NGOは「時間と資金のムダであると
して、上院議員選挙の監視活動を行わないことを表明した。国内の主要選挙監
視NGOの不参加のもとで選挙が実施されるのは、今回が初めてとなる。
 上記の上院議員選挙法の制定を一例として、最近のカンボジアでは政治的・
市民的自由の後退が随所にみられる。以下、権威主義的統治が強まる最近のカ
ンボジアの政治情勢を簡単に紹介したい。

野党排除の動き
 国民議会における野党の影響力を排除しようとする動きが本格化したのは、
2003年国民議会選挙で野党サム・ランシー党が首都プノンペンで第1党となり、
全国で24議席(前回+9議席)を獲得する躍進をみせた後だった(人民党は73
議席、FUNCINPEC党は26議席を獲得)。選挙後、政党間の政治的対立によって
約1年におよぶ新政府の不在が続いたが、2004年7月にフン・セン人民党副党首
を首班とする人民党とFUNCINPEC党の連立内閣が発足した。翌8月、人民党と
FUNCINPEC党は国民議会内に設置されている9つの委員会の委員長ポストのみな
らず、委員ポストまでもすべて両党で独占し、議会運営からサム・ランシー党
の締め出しを図った。
 さらに、与党が全議席の8割を占める国民議会は今年2月初旬、フン・セン首
相とノロドム・ラナリット国民議会議長・FUNCINPEC党党首に対する名誉毀損
などを理由に、サム・ランシー党首をふくむ野党議員3人の不逮捕特権の剥奪
を決定した。3人のうち1人は即日逮捕され、サム・ランシー党首ともう1人の
議員は海外への亡命を余儀なくされた。国民議会のこの決定を不当とするサム
・ランシー党は、7月下旬までの約半年間、上院および国民議会におけるすべ
ての審議をボイコットした。
 サム・ランシー党による審議のボイコットの影響もあり、国民議会は2月以
降、定足数(議員総数の10分の7=87人)に達せずに本会議を開催できない日
が続いた。そこで人民党とFUNCINPEC党は憲法を改正し、定足数を5分の3(=
74人)に削減した。人民党は73議席を有するため、FUNCINPEC党の議員が1人で
も出席すれば本会議を開催できるようになったのである。上述の上院議員選挙
法は、定足数の削減によって国民議会本会議が再開された直後、人民党と
FUNCINPEC党の全会一致によって可決された。

政治的・市民的自由の後退
 以上のように、最近のカンボジアでは国民議会における野党の影響力が著し
く低下している。他方、現在の上院(61人)の構成は、国王の任命による2人
を除く59人の議員が1998年国民議会選挙における各党の議席占有率(人民党
52.5%、FUNCINPEC党35.3%、サム・ランシー党12.3%)に応じて、各政党によっ
て任命されている。しかし、選挙権を持つ議員の9割近くが与党に所属する現
行の制度の下で上院議員選挙が実施されれば、上院における野党の議席数はさ
らに減少することは明らかである。このように、上院議員選挙が実施されれば、
立法府における野党の影響力はさらに低下することになるだろう。
 野党の政治的自由が制限される傾向にある一方で、自由選挙の前提となる表
現・集会・結社の自由などの市民的自由も十分に保障されているとはいいがた
い。首都プノンペンでは2003年1月の反タイ暴動以降、政府に批判的とみなさ
れるデモはたとえ平和的なものであっても、「治安・秩序の維持」や「政治的
安定の維持」を理由にほとんど禁止されている。地方では与党と不可分に結び
付いた村長や警察などが、野党の集会を妨害するという事件が各地で報告され
ている。また最近では、不逮捕特権を剥奪されて亡命中のサム・ランシー党首
が帰国の意思を表明すると、王立法律経済大学などの高等学術機関が学生にサ
ム・ランシーの帰国に抗議するデモを行なうように呼びかけ、プノンペン市当
局もこれを許可する方針であることが伝えられた。国立大学の大半の教員は人
民党員であるといわれているが、これまでは教育関係者が特定の政党を糾弾す
るためにこれほど大々的に学生を動員することはなかったように思われる。

政党型権威主義体制への移行?
 1991年のパリ和平協定締結によってカンボジアに複数政党制が導入されてか
ら、今年でちょうど15年目となる。国連の暫定統治下での自由選挙を経て1993
年に現体制が成立したとき、国際社会の多くはカンボジアに民主化が定着する
であろうと楽観的な見通しを示していた。しかしながら、1997年の人民党と
FUNCINPEC党の武力衝突における前者の勝利、および1998年国民議会選挙での
人民党の勝利を経て体制は政治的安定を獲得したものの、民主化は停滞、また
は後退しているといわざるをえない。過去の選挙(1998年国民議会選挙、2002
年クム・ソンカット評議会選挙、2003年国民議会選挙)では、与党が大半を占
める国家選挙委員会の中立性の問題、殺人をふくむ政治的理由による暴力事件
の多発、野党のメディアへのアクセスの制限、カネやモノによる票の買収など
の問題が報告され、選挙の形骸化が進んでいるとの指摘もある。
 カンボジアでは今後、人民党主導の権威主義体制(特に、実質的な統治権力
が単一政党に集中するシンガポールやマレーシアのような政党型の権威主義体
制)が確立するのだろうか。来年の上院議員選挙に続き、2007年にはクム・ソ
ンカット評議会選挙、そして2008年には国民議会選挙と、3年連続で選挙が続
く。引き続き現地の動向に注目しながら、研究を進めていきたい。
                          (やまだ ひろし)
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◆新刊書・論文紹介
 冒頭の「○」は単行本や雑誌、「・」は雑誌に掲載された論文を意味します。
 価格は原則として総額表示としております。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜《政治・安全保障全般》〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

○大泉常長(監修)『国際危機管理論—国際テロリズムの学際的研究および
  危機管理対策』高文堂出版社(2005年9月)¥2,980(税込)

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜《アジア》〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

○鐸木昌之・平岩俊司・倉田秀也(編)『朝鮮半島と国際政治:冷戦の展開と
  変容』慶應義塾大学出版会
   2005年10月刊(4,800円+税)

 地域研究と国際政治研究は多くの点で不即不離の関係にあるが、朝鮮半島問
題はそのことを示す恰好の事例の一つといえよう。本書は「韓国の政治外交」
「北朝鮮の政治外交」「日本と朝鮮半島の関係」「朝鮮半島をめぐる国際政治」
の4つの柱から構成される論集であり、朝鮮半島問題の歴史的・体系的な把握
に寄与するようにつくられている。イデオロギーや政治的立場を離れて朝鮮半
島問題を論ずることには今日もなお困難が存在するが、そうしたなかにあって、
本書は政治学の学問としての可能性に挑んだ労作といえる。15人の執筆者たち
は小此木政夫慶大教授の門下生で、その出身と所属は日韓両国にクロス・オー
バーしている。将来のいつか、北東アジアに「共同体意識」の醸成されるとき
が来るとしたら、その基層の一部は彼らが担うことになるかもしれない。
                            (小笠原高雪)

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◆編集後記
 地下30から40メートルの高速道路掘削現場の見学に行ってきました。池袋か
ら新宿を経て渋谷に向かう環状6号線(山手通り)の地下で、2007年3月目指
して首都高速中央環状新宿線の工事が行われています。その初台交差点付近の
地下工事現場で、周辺住民へのサービスとして見学会が行われた次第です。◆
入り口でヘルメットと軍手を渡され物々しく武装して地下へ。10メートルも下
がるとそこは別世界、鉄やコンクリートの骨組みとともに思いがけず広くて明
るい近未来的な空間があらわれ、はるか下の方に建設中の道路やトロッコのレー
ルが見えてきました。◆なにしろこの高速道路、妙正寺川のほか、東西線・丸
ノ内線・千代田線などの地下鉄のさらに下を走るので、ほとんどが相当な深さ
の地下工事となります。そのため開削での工事はおよそ3割弱で、あとはほぼ
シールド工法といって高さ14メートルもある巨大な丸い掘削機を動かし穴を掘
り進むとのこと。これで片側二車線分を一日6から7メートル掘るのだそうです。
約10台のシールド掘削機は130くらいのパーツに分けて地下に降ろし、組み立
てて使うのだそうです。◆ぞろぞろと20名ずつくらいに分かれて案内され、要
所要所で説明を受け、あっという間の一時間でした。郵政民営化騒ぎでやや忘
れられていた感がありますが、今日(10月1日)は道路公団が分割「民営化」
した初日、いただいたパンフにも株式会社・首都高速道路とありました。案内
して下さった方々の対応もとても親切かつ丁寧で、こういう企画自体、「民営
化」の副産物なのかもしれません。◆10月14、15日には今回の見学会を大幅に
バージョンアップさせた「東京トンネリックス」なる「民営化」の意気込み
120%炸裂のイベントが予定されています。なにしろキャッチコピーが凄くて
「土木がファッションになる日」(!)。内容的にも旧道路公団っぽい「見学
と説明」なんかではありません。うたい文句が「鉄とコンクリートのやすらぎ」
で、「直径12mの巨大トンネルを音と光のインスタレーション空間に変える実
験」をやり、そのうえさらに「トンネルで働く男たちとパリコレクションの
スタイリングが山手通りの地下30メートルで融合する史上初の試み」としての
「地底ファッションショー」(!?)を敢行するのだそうです。うーむ、民営
化おそるべし(詳細はhttp://www.tokyo-tunnelix.jp/index.htmlを参照)。
◆次号は10月15日頃配信の予定です。              (広瀬)
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ユーラシア・ウォッチ 第74号(2005年10月2日発行)
発行元:秋野豊ユーラシア基金(代表 秋野洋子)
    〒151-0061 渋谷区初台1-51-1 初台センタービル803
編集責任者:広瀬佳一
郵便振替02740−2−3000
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