秋野豊ユーラシア基金の発行するメールマガジン。ユーラシア大陸の人々の暮らしや文化、歴史、政治、経済などに関する情報、エッセイ、文献紹介、国内でのイベント情報などをお伝えします。
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ユーラシア・ウォッチ 第68号【秋野豊ユーラシア基金】
発行日: 2005/6/15======================================================================
◆◆ ユーラシア・ウォッチ ◆◆
Eurasia Watch
編集・発行:秋野豊ユーラシア基金
http://www.akinoyutaka.org
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第68号 2005年6月15日
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◇Contents◇
・第7回秋野豊賞発表!
・文献紹介 神余隆博著『国際危機と日本外交』(立山良司)
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◆第7回秋野豊賞、決定◆
第7回秋野豊賞の受賞者が決定し、6月10日付で理事会において承認されま
した。次のお二人です。
山田裕史:関西外国語大学卒、上智大学大学院在学(27歳)
カンボジア市民フォーラム事務局調整員
テーマ:カンボジアにおける選挙をめぐる紛争
岸田圭司:東京外国語大学大学院地域文化研究科在学(38歳)
フリージャーナリストとして12年以上活動。
朝日、産経などの新聞、アエラ、週刊金曜日などの雑誌などに
イラクを中心にアフリカ、バルカン、中東までのテーマで寄稿
多数。
テーマ:英国公文書にみるイラク・キルクーク帰属問題
−−−−−−−−
[審査委員長講評]
第7回秋野豊賞の審査を終えて
審査委員長・伊東孝之(早稲田大学教授)
ついこの間まで中国や韓国の指導者が「東アジア共同体」構想を唱え、日本
の首相がおそるおそる唱和していたのが嘘のようである。中国では各地で反日
デモが荒れくるった。韓国でも反日集会が続いている。先日、勤務先の卒業式
に韓国高麗大の総長が来日して挨拶したが、出発前に同僚から訪日を思いとど
まるよう真顔で説得されたと述べたのが印象的であった。中国も韓国も日本が
国連常任理事国になることに反対だそうだ。隣国に支持されずに常任理事国に
なるのはよした方がよいという気がする。「東アジア共同体」はどこかに吹き
飛んでしまった感じだ。
なぜこのような激変が起きたのか。突然起きたように見えるが、実際には長
い間潜伏していたものが表面に躍り出たと考えるのが正しいだろう。尖閣列島
や竹島について、日本国内では古来日本のものという見方が行き渡っている。
しかし、中国や韓国ではその逆の見方が行き渡っていて、ずっと平行線を辿っ
てきたのである。なにかの拍子に相手がその見方を共有していないということ
が判ると、大衆は激昂する。これははなはだまずいことである。紛争の勃発は
あらかじめ計画されているようなものだ。それを避けるためにふだんから全力
を尽くしておくべきだろう。
靖国問題についても同様だ。自分たちの国をひどい目に遭わせ、国際的にも
審判が下っているはずの戦争犯罪人を相手国の首相が追慕して、それを時折デ
モンストレートしていると知ったら、抗議するのは当然だろう。今回の反日デ
モについて注目するべきは自然発生的に起こってきたことだ。中国政府はこれ
を抑えようと躍起になっているが、抑えきれないでいる。中国にもようやく市
民社会らしいものが生まれようとしている。
日本政府がこれに対してこのように言うことは考えられないだろうか。「諸
君は抗議する権利がある。われわれはその権利を支持しよう。ただし、日本の
市民、日本国家のシンボルを攻撃するのはやめてもらいたい」。さらにこうつ
け加えることもできよう。「同様に中国政府の特定の行動に対してわが国民も
抗議する権利がある。その権利を諸君が支持してくれることを期待する。われ
われは中国の市民、中国国家のシンボルを攻撃することはけっして許さない」と。
世界各地の国内紛争解決への日本の寄与が高まっている。それはカンボジア、
ボスニア、アフガニスタン、イラクなどを見れば明らかだ。政府レベルだけで
はなく民間レベルでもそうである。わが秋野豊ユーラシア基金は7年来そのよ
うな紛争解決努力を支援してきた。徐々にその成果が現れてきているように見
えるのは嬉しいことである。今後は国内紛争だけではなく国際紛争にも、とり
わけ日本を取り巻く東アジア世界での国際紛争にも目を向けてもらいたいものだ。
第7回秋野賞の募集は5月13日(金)に締め切られた。応募総数は過去最高の
16名であった。基金への関心はますます高まっていると言えよう。応募者が研
究対象とする地域は、西バルカン、モルドバ、トルコ、イスラエル、中央アジ
ア、アフガニスタン、インド、ラオス、カンボジアと文字通りユーラシア全域
に及んでいる。今回から対象となった歴史・外交史分野においても、ドイツ再
軍備問題、イラク(クルド)問題、日ソ関係、中東戦争と米欧関係の4つの応
募があった。
いつものように審査は二段階で行われ、事務局段階である程度絞り込まれた
ところで、応募者の名前が伏せられ、書類だけが審査員のもとに送られてきた。
6名の審査員は、目標が明確・具体的か、計画が体系的で目標の実現に適切か、
現地調査を有効に活用できるか、有意義な報告が期待できるかの4項目につい
て、それぞれ採点し、それを事務局の方で集計した。
よく準備された計画が多かったように思う。紛争研究に関してはいずれも具
体的な紛争に焦点を絞り、現場主義に徹していた。すでに現地体験があり、現
地との連絡もとっていて、成果が挙がりそうなものが多かった。外交史研究に
おいても調査すべき事件・資料について絞り込んでいるものが多かった。甲乙
つけがたい優れた研究計画が多かったように思う。本当なら受賞者の数を思い
切り増やしたいところであるが、基金の財政事情を考えるとそうも行かず、2
つに絞ることとした。受賞したのは次のプロジェクトである。
まず、「カンボジアにおける選挙をめぐる紛争」。日本はカンボジアの和平、
民主化に大きな役割を果たした。そのフォローアップという意味で、大きな意
義をもつ調査計画である。かつて選挙監視団に加わって活動した経験が反映さ
れており、目標が具体的で、明確である。クメール語を理解するということも
計画成功の重要な要因であると思われる。申請者、山田裕史氏は、関西外国語
大学卒、上智大学大学院に在学中の27歳。カンボジア市民フォーラム事務局
調整員でもある。帰国後、民主化・選挙支援のあり方について提言を行うとい
う意欲に溢れている。それはよいが、調査結果を実践的な目的とばかりではな
く、より大きな研究計画とも結びつけてもらいたい。選挙の実施は民主化の中
核的な出来事である。カンボジアのようにそれがうまく行かないようなところ
で、どのようにすれば民主化が可能かを明らかにすることができれば大きな学
術的貢献となろう。
次に、「英国公文書にみるイラク・キルクーク帰属問題」。外交史研究では
あるが、具体的なイラクの紛争問題の解決と結びつけている。申請者、岸田圭
司氏は東京外国語大学大学院に在学中の38歳。フリージャーナリストとして
12年以上活動。朝日、産経などの新聞、アエラ、週刊金曜日などの雑誌にイ
ラクを中心にアフリカ、バルカン、中東までのテーマで寄稿多数ということで
ある。岸田氏が調査実施を予定している英国公文書館は、奇しくも故秋野氏が
英国留学中に通ったのと同じ公文書館である。調査の目的はきわめて明解で、
資料の所在、範囲などもはっきりしている。ただ、あまりに明解すぎて少し心
配な点もある。たとえアルヒーフ調査によってキルクークの帰属が明らかになっ
たところで、それが紛争解決に役立つかどうかは別問題だろう。クルド人問題
にはより深い背景があって、より広い国内政治的、国際政治的考察が必要であ
る。調査計画を単発的に終わらせるのではなく、より大きな研究計画の完成に
役立ててもらいたいものである。
秋野豊ユーラシア基金がこれまでに支援してきた研究プロジェクトと同じく、
山田裕史氏、岸田圭司氏のプロジェクトもまた、わが国の紛争研究の水準向上
に大きく貢献するだろうことを確信するものである。 (いとう たかゆき)
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◆新刊書・論文紹介
冒頭の「○」は単行本や雑誌、「・」は雑誌に掲載された論文を意味します。
価格は原則として総額表示としております。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜《政治・安全保障全般》〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
○神余隆博著『国際危機と日本外交―国益外交を超えて』(信山社)
2005年2月刊、2800円、xiv+293頁
立山良司(防衛大学校)
東アジアの現在を見ていると、日本外交が将来に向けた有効なビジョンをい
かに持っていないかを改めて実感する。中国や韓国が対日批判に拠った偏狭な
ナショナリズムを煽っていることが問題をいっそう複雑にしていることは明ら
かだが、日本の対応も感情的だったりその場しのぎで、東アジアにどのような
地域システムを構築するかという想像力や構想力を欠いている。その意味で、
現職の外交官が外交とは何かという根本的な問題意識を出発点に、日本外交の
課題や問題点、今後の方向性などを包括的に論じた本書は大変価値があるだろ
う。著書の神余隆博氏は現在、外務省国際社会協力部長であり、外交の最前線
で活動している。同時に国際関係論や国際政治の分野でよく知られているよう
に、氏は『新国連論』をはじめ多くの著書や論文を発表するなど、研究者とし
ても活躍している。
本書の議論は日本外交が抱えている課題と、これらからの世界でどのように
秩序が形成されていくかという二つのテーマを軸に展開されている。筆者はま
ず外交を「国益重視+国際協調+威信の確保」と定義する。「威信」は「尊厳」
と言い換えてもよく、「威信の確保」とは「外交の持つ精神的価値」「外交の
エートス」を意味している。筆者によれば外交上の努力とはこの3要素を同時
に満たす解、つまり「パレート最適」を見出すことだ。しかし、戦後の日本外
交は理念や構想力を欠き、予防ではなく危機を実感して初めて対応するという
「実感主義」を乗り越えられなかった。このため「威信の確保」には十分な努
力が払われてこなかったという。
一方、今後の世界秩序に関し筆者は、現在は米国による覇権安定的な様相を
呈しているが、全体としては多極化に進んでいるとの認識を示している。一つ
には米国だけで国際公共財すべてを提供することは不可能であり、主要国間の
国際協調が不可欠になっているためだ。もう一つはロシアや中国はもちろんの
こと、英国、フランス、ドイツなどの西ヨーロッパ諸国も米国の覇権に異議申
し立てないし自己主張をしているからだ。筆者によれば、米国、特にブッシュ
政権の外交は勧善懲悪的な理念に立脚しているが、西ヨーロッパも人権重視を
基盤とした「理念の帝国」であり、イラク攻撃への対応の違いに顕著に現れた
ような理念の違いに起因した対立が今後さらに拡大する可能性が高いとみる。
結局、筆者の基本的な問題認識は国際社会が多極化し、勢力均衡的な外交、
マルチ(多国間)外交が重要になる中で、日本は何をなすべきかいう点にある。
その答えとして筆者が提示しているのは、国際公共財の積極的な提供、協調的
な外交、さらに国連を「マルチ外交の場のひとつ」として「定数ではなく変数
として捉える新しい国連外交」などだ。より具体的には国連安保理常任理事国
入りの実現や東アジアにおける協力的(協調的)安全保障の実現、ピース・メー
キング(平和創造活動)外交の推進などを提唱している。
本書を大変興味深いものにしている大きな要因は、筆者の検証が国際関係の
理論と外交官としての実務経験の両方を踏まえていることだろう。今後の世界
秩序のあり方に関する考察も帝国論や覇権安定論、勢力均衡などの理論面に加
え、核やグローバル化、「テロとの戦い」、国連の機能不全など実際的な問題
を広範に取り上げ検討している。特に筆者はドイツを中心に外交官としての経
験を重ねてきただけに、西ヨーロッパが直面しているジレンマに関する考察は
多面的で、単に米国vs西ヨーロッパといった平板な分析に留まっていない。ま
た、NATOによるユーゴ空爆の際、在ユーゴ日本大使館がドイツの利益代表を務
めた話などは、実務家としての筆者の知見と本書のテーマ(威信確保の外交)
をうまくマッチさせたもので、説得力のあるエピソードとなっている。
もちろん、評者の目から見て不十分な点もある。ここ数年、外務省はさまざ
まに批判され、そのあり方が正面から問われてきた。また、日本政府における
意志決定プロセスも変化しており、外交も首相官邸主導といわれている。実際、
外務省の知人と話していると「官邸の意向」という言葉がよく出てくる。にも
かかわらず、本書では近年の外務省批判や外交政策の決定プロセスにおける変
化が日本外交にどのような意味を持っているのかといった言及はほとんどない。
現職の外務省幹部としてこうした問題に論評することの困難さは理解できるが、
大変残念な感じがする。また、最後の提言部分も、協力的安全保障システムを
めぐる問題点への掘り下げが不十分など、突っ込み不足の感は否めない。
だからといって、本書の価値が減少するということではない。日本は国連安
保理常任理事国入りを目指した外交努力を本格的に始動した。その一方で中国
や朝鮮半島との関係を含め外交上、多くの将来的な課題を抱えている。これか
らの東アジアや国際秩序の方向性を検討し、その中での日本外交のあるべき姿
を考える際、本書は有意義な指針を提供している。 (たてやま りょうじ)
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜《ロシア・中央アジア諸国》〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
・中西健「特別大統領選挙に向けての政情と隣国ウズベクの騒乱」
『世界週報』(時事通信社)6月21日号
※中西氏は第5回秋野豊賞受賞者。
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◆編集後記
第7回秋野豊賞が決定しました。応募者16名のなかで、最後に5名の方に
絞られましたが、基金に資金的余裕があれば5名全員に秋野豊賞をさしあげた
いところでした。事務局としては今後、一層の節約につとめるとともに、会員
の拡大努力もしていかなければならないと痛感させられました。なお受賞者の
声や計画概要は秋野豊ユーラシア基金ホームページをご覧下さい。◆次号は7
月1日頃配信の予定です。 (広瀬)
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ユーラシア・ウォッチ 第68号(2005年6月15日発行)
発行元:秋野豊ユーラシア基金(代表 秋野洋子)
〒151-0061 渋谷区初台1-51-1 初台センタービル803
編集責任者:広瀬佳一
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