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秋野豊ユーラシア基金の発行するメールマガジン。ユーラシア大陸の人々の暮らしや文化、歴史、政治、経済などに関する情報、エッセイ、文献紹介、国内でのイベント情報などをお伝えします。




ユーラシア・ウォッチ 第62号【秋野豊ユーラシア基金】

発行日: 2005/3/15

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         ◆◆ ユーラシア・ウォッチ  ◆◆
              Eurasia Watch

         編集・発行:秋野豊ユーラシア基金
                     http://www.akinoyutaka.org
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 第62号                        2005年3月15日
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              ◇Contents◇

     ・文献紹介
       佐藤文香『軍事組織とジェンダー』(河野仁)ほか。

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◆新刊書・論文紹介
 冒頭の「○」は単行本や雑誌、「・」は雑誌に掲載された論文を意味します。
 価格は原則として総額表示としております。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜《政治・安全保障全般》〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

○佐藤文香『軍事組織とジェンダー−自衛隊の女性たち』慶應義塾大学出版会
   2004年12月刊(\4,200)
                      河野 仁(防衛大学校教授)
 自衛隊組織を対象とした社会学的研究は少ない。しかも、本書は「ジェンダー」
の視点からの実証的研究であるという二重の意味で画期的な労作である。
 社会学の分野でジェンダー研究が興隆しはじめたのは80年代以降、欧米では
軍事組織をジェンダーの観点から検証しようとする研究が増え、湾岸戦争時に
は「女性兵士」の戦闘参加問題が世界の注目を浴びた。フェミニストである著
者も、主として米軍を対象とした女性兵士問題の研究に触発され、自衛隊組織
の中の女性を研究対象として取り上げることを決心したという。「軍隊は悪」
「暴力は悪」であると考えていた著者にとって、「軍隊の女性」は「わかりに
くい」存在であった。その「わかりにくい」女性を正面から見据えて理解しよ
うと著者なりに試みたのが本書である。
 本書は3章から構成されている。第1章「軍事組織とジェンダー」では、ジェ
ンダー・イデオロギーの分析枠組が提示される。カギとなるのは、1)男女の
差異は個人差よりも大きなものとして認めるか否か(差異志向)、2)男女の
役割は平等だと考えるか否か(平等志向)、3)軍事組織の正当性を認めるか
否か(軍事組織志向)、の三つの評価軸である。この三次元軸に基づくジェン
ダー・イデオロギーの8類型(ミリタリスト伝統主義者、アンチミリタリスト
伝統主義者、ミリタリスト差異あり平等派、アンチミリタリスト差異あり平等
派、ミリタリスト平等派、アンチミリタリスト平等派、ミリタリスト実力至上
主義者、アンチミリタリスト実力至上主義者)が、本書の議論を一貫して導く
思考軸となっている。
 第2章では、自衛隊におけるジェンダー政策およびジェンダー表象の歴史と
その変遷を4つの時期に区分して辿っている。なかでも自衛官募集ポスター等
に現れる男女の姿の時系列的変化を検証し、近年の平等志向の強まりに応じた
女性表象の多用によって自衛隊の「非軍事的」イメージを強調しながらも組織
内の「差異志向」は依然として残っているとするジェンダー表象分析には一定
の説得力がある。
 だが、本書の真価が問われるのは、現職女性自衛官へのインタビュー調査、
および防衛大学校男女学生を対象としたアンケート調査とインタビュー調査の
分析結果をまとめた第3章であろう。自衛官や防大生のジェンダー・イデオロ
ギーを実証データの分析を通して描きだそうとする著者の真摯な研究態度には、
ひとまず敬意を表したい。また、「ミリタリスト差異あり平等派」の公式イデ
オロギーをもつ自衛隊組織内に根強く残る男女の差異的処遇に関する問題の一
端を明らかにしている点は高く評価されるべきであろう。しかしながら、著者
自身の持つ「アンチミリタリスト平等派」フェミニストとしての価値判断が、
ときに分析の目を曇らせてしまっているような印象をもつのは評者だけではあ
るまい。「軍事化=悪」「差異あり平等=悪」という前提に立って著者の議論
が展開される点も気になる。
 幹部自衛官養成機関である防大が「ジェンダー化された軍事化装置」である
ことは、幹部自衛官という軍事専門職の「職業的社会化」機能を担う以上、著
者の指摘を待つまでもなく当然である。そもそも、軍事専門職の教育訓練過程
を「軍事化」という概念を用いて分析すること自体に疑問を覚える。さらに、
軍事組織という特殊な組織目的を持つ組織が「差異あり平等派」ではなく「平
等派」のジェンダー・イデオロギーを持つべきであるかどうかは自明の問題で
はない。軍隊内の男女差別は違憲であるとする国がある一方で、フェミニズム
先進国の米国では「女性の直接戦闘職種制限」が続く。それぞれの社会によっ
て「軍事組織の効率」と「男女平等」という価値のバランスのとり方は異なる。
日本でも、企業や官庁の「男女共同参画」が遅々として進まないことは周知の
事実である。著者も指摘するように、「男=一流の戦力/女=二流の戦力」と
位置づけ、女性を組織内に「包摂しつつ周縁化する」のは、確かに「見慣れた
光景」である。「自衛隊・防大に女はいらない」と考える自衛官・学生がいる
ことは確かに問題であるし、過度の「女性優遇」政策にも問題があろう。自衛
隊組織は、男女平等という価値を重視する時代の流れを無視すべきではない。
「婦人自衛官」から「女性自衛官」への呼称変更や、防大生の制服の男女共通
化などの表面的/形式的平等だけでなく、意識改革も含めた実質的な男女平等
の推進が望まれる。
 結論では、これまで自衛隊の正当性に疑問を持つ立場から日本のフェミニズ
ムは「自衛隊の女性」を無視し続けてきたが、これからは「軍隊の女性にも向
き合うべきだ」と著者は説く。今後ますますグローバル化する安全保障の問題
に、日本のフェミニズムはどのように関わろうとするのか。今日の複雑な安全
保障の問題は、単純に「軍事化」という概念では捉えきれまい。「自衛隊とい
う軍事組織」を保有する国の市民としての責任を自覚し、「軍隊という悪」が
なくなれば世界に平和が訪れるというナイーブな安全保障観を払拭しようと模
索する著者の苦悩が、結語の行間に滲む。結局、著者には「軍隊の女性」のこ
とがまだよくわかっていないのではないだろうか、というのが評者の率直な感
想である。同じ「女性」だからという理由で「自衛隊の女性」と連帯しようと
するフェミニストと、たとえ女性であっても教条的平和主義者とは相互理解の
余地はないと考えるアンチフェミニストの女性自衛官。両者を隔てる溝は意外
に深いのかもしれない。
 とはいえ、今後、政治的イデオロギーの違いを超えて、さまざまな視点から
の建設的な防衛政策論議を促すためにも、より多くの人に本書の一読を勧めた
い。本書によって投じられた一石により、防衛庁・自衛隊のジェンダー政策の
あり方が見直され、男女共同参画社会の進展へと波紋が広がることを願う。
                          (かわの ひとし)

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜《アジア》〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

○『海外事情』(拓殖大学海外事情研究所)平成17年1月号
 特集:中国「親民路線」は進展するか 
 ・胡錦濤の三権掌握と改革の行方 − 佐々木智弘 
 ・「一国二制度」下の「鳥籠民主」 − 中園和仁 
 ・胡新指導部の外交 − 久村春和 
                       ・・・など収録

・十市 勉「一国主義から『地域主義』へ―アジア諸国とのエネルギー協力
  体制の確立を」『世界』2005年2月号

・李志東「中国の石油需給見通しと石油安全保障戦略」
   『世界』2005年2月号

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜《ロシア・中央アジア諸国》〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

○Lena Jonson, Vladimir Putin and Central Asia: The Shaping of Russian 
 Foreign Policy(New York: I.B. Tauris, 2004), 304pages,
 ISBN:1850436282, $75.00. 
              稲垣文昭(慶應義塾大学SFC研究所訪問研究員)
 ロシアはなぜアメリカ軍の中央アジアへの展開を認めたのか。おそらく、9.11
事件を起点とした国際政治の転回図を解明しようとする誰しもの頭をよぎる疑
問である。 OSCEのタジキスタン・ミッションに政務官として参加した経験もあ
り、中央アジアに関する著書、論文も多い本書の著者、Lena Jonsonもどうや
らこの疑問にとらわれたようである。
 本書は、1999年段階と2001年段階でのロシアの対中央アジア政策の変化を分
析し、その変化が何故起こったのかを考察し、将来における中央アジアでのロ
シアの影響力について論議することを目的としている。しかし、これらの目的
はあくまでも題名からもわかるようにプーチンが率いるロシアについてである。
第一部ではロシア・中央アジア関係の歴史を振り返っているが、それはあくま
でプーチン政権の対中央アジア政策の「背景」でしかない。著者にとってはプー
チンが首相に任命された1999年からが分析の対象であり、その眼差しはプーチ
ンとは何者なのか、どのような政策を実行する者なのか、とプーチンの存在そ
のものに向けられている。
 さて、著者はプーチンが首相に任命された1999年以降対中央アジア政策では
一貫して「対テロリズム」が第一の優先事項であり続けておりなんら政策の変
化がないことに留意しつつ、1999年に見せていたアメリカの影響力拡大への懸
念は2001年にはアメリカ(と西側)をロシアのパートナー化へと大きく舵を切
ったことに注目している。また、この変化はソ連崩壊後の国際社会でのロシア
の新しい地位を模索する結果であることではあるが、それでも残る「何故この
ような政策を選択したのか」という疑問を解明すること、そしてプーチン政権
の外交政策そのものを明らかにすることを目指している。そのため、国内要因、
国際要因さらには国際環境、機能主義等多角的なアプローチでの分析を試みロ
シアが国際社会で果たす役割と影響力の強化を目的としつつも急激な変化をみ
せる国際社会において現実的な選択がプーチン外交の性格と結論づけている。
 何よりよりその中央集権化を押し進めるプーチン政権の外交政策を帝政時代
のニコライ1世のもとで宰相を務めたアレクサンドル・ゴルチャコフの政策に
重ねあわせていることが興味深い。        (いながき ふみあき)

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜《ヨーロッパ》〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

○中村民雄編著『EU研究の新地平―前例なき政体への接近』ミネルヴァ書房
   2005年2月刊(\4,200)

・庄司克宏「欧州憲法条約とEU―『多様性の中の結合』の展望と課題」
   『世界』(岩波書店)2005年2月号

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◆編集後記
 秋野豊先生の足跡を追うテレビ番組「青いツバメ」の反響が事務局にもテレ
ビ局にも届きましたので、いくつかご紹介します。◆「泉谷しげるには、小生
は常々好感を持っておりましたが、それでも彼のナビゲーションとやらには若
干危惧を抱いておりました。しかし番組が進むに従い、泉谷がぐいぐいと秋野
さんに共感していくのが手に取るようにわかり、何か、小生の大好きな二人が
出会って友達になったかのような気がしました。実際に出会っていれば、おそ
らく二人は仲のよい友達になっていたんではないでしょうか。」(東京・団体
役員)。確かに泉谷さんの飄々とした感じは、中央アジアの平和と紛争という
問題を身近に感じさせるのに成功したと思います。「秋野さんが遂げようとし
ていた仕事の大きさ・複雑さと既製の価値観に縛られないやり方でそれを丹念
に進めていた彼の姿勢がよく伝わってきました。特に『相手の懐に入って』と
いう言葉が印象的でした。」(北海道)◆言葉といえば、お嬢さんのさやかさ
ん、印象的でした。「お嬢様が、『乱世に生きる父』と言う趣旨で、坂本龍馬
をひきあいに出されておりましたが、まさしく『思いと志』に殉じられた一生
だったのでしょう。」(東京・会社員)。前号でご紹介した銃弾のエピソード
も感銘を与えたようです。「ご本人さんのストーリーはもとより、娘さんの
最後の言葉に衝撃を受けました。ほぼ同じ年齢の女性から発せられた言葉とは
思えない、一生ものの言葉です。妹が現在国際政治を勉強中で国連職員を目指
していますのですぐにこの内容をつたえました。」(北海道)◆もっとも実は
一番コメントが多かったシーンは、ガルムで賄いのおばさんがでてきて思い出
を語るところで、秋野先生が彼女のピラフを大好物にしており、よく大盛りを
お代わりしていた、とのくだり。生前、秋野先生と面識のあった人々からは、
この場面を見て、「そういえば秋野さんと一緒に1ポンドステーキを食べた」、
「食べ放題の焼き肉を山ほど食べた」、「真冬の夜にわざわざアイスクリーム
を買ってきて研究室でバクバク食べた」などというエピソードをいくつもいた
だきました。◆私自身の経験でも、秋野先生と二人で食事に行くと、さあ食う
ぞーみたいな感じでさっさと私の分を含め三人前を頼んでしまうので、店の人
に「お連れ様、もう一人来られるんですか?」と尋ねられて、ちょっと恥ずか
しかったことが何度かあります。そんなとき秋野先生は明るく、「いえ、この
店は飛び上がるほどうまいって聞いたもんで、全部、二人で食べますよぉ」と
おっしゃると、お店のおかみさんとかおやじさんが笑いだして、雰囲気がなご
むのです。秋野流「ものを食う」という行為は、作り手の心意気を食べるみた
いなところがあって、それがおそらく「相手の懐に入って」ということと通ず
るのかもしれません。現地を理解し、タフに調査をするには、まずしっかり
食べることからなのでしょう。◆次号は4月1日頃配信の予定です。 (広瀬)
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ユーラシア・ウォッチ 第62号(2005年3月15日発行)
発行元:秋野豊ユーラシア基金(代表 秋野洋子)
    http://www.akinoyutaka.org
    〒151-0061 渋谷区初台1-51-1 初台センタービル803
編集責任者:広瀬佳一
郵便振替02740−2−3000
★ご意見・ご感想はinfo@akinoyutaka.org までお寄せください。
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