ユーラシア・ウォッチ 第57号【秋野豊ユーラシア基金】
発行日時: 2004/12/20======================================================================
◆◆ ユーラシア・ウォッチ ◆◆
Eurasia Watch
編集・発行:秋野豊ユーラシア基金
http://www.akinoyutaka.org
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第57号 2004年12月20日
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◇Contents◇
・エッセイ/ゆーらしあの風
インドへの旅(千原通明)
・文献紹介
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■エッセイ/ゆーらしあの風■
インドへの旅
千原通明(カトリック司祭)
今年の6月5日から8月3日までの2ヶ月間、短いサバティカル(研修休暇)
でインドに行かせていただきました。研修のためにインドを志望したのは、ア
ジアの中でも深い霊性の歴史を持つ国だからです。今回、主にお世話になった
のは、インド南部のデカン高原にあるバンガロールという都市にある修道院で、
アメリカ人とインド人の神父、そして4名のインド人神学生(哲学課程)が住
んでいる小さな共同体です。
バンガロールは、インドで5番目に大きな都市で、人口は600万人以上
(1994年のデータ)。標高900メートルに位置し、夏の4、5月以外はたいへ
ん過ごしやすい気候で、私が滞在していた頃は朝晩気温が20度以下まで下がり、
水のシャワーを浴びるにはちょっと寒いくらいでした。現在は「インドのシリ
コンバレー」と呼ばれるほどコンピュータ・情報関連(いわゆるIT産業)の
企業の多いところで有名です。インドのIT産業の発展を支えているのは、イ
ンド人が英語もできて数学的な才能に長けていること、また地価や労働力が安
いことなどが挙げられるようです。じっさい、日本でも見ないような電気自動
車が、いまだに活躍する牛車の脇を走っていたり、ハイテクの最先端とインド
古来の生き方とのコントラストに驚かされます。またバンガロールは、「イン
ドのバチカン」とも呼ばれるほどカトリックの教会や修道院の多いところで、
カトリックの学校や大学もあちこちに見ることができます。
今回のインドでの研修の主な目的は、インドの伝統的な霊性に触れるという
ことでした。そこで、お世話になった神父が、「アンジャリ・アシュラム」と
いうカトリックの黙想の家を紹介してくれました。バンガロールからバスで4
時間ほど行ったマイソールという古い都市にある黙想の家です。アシュラムと
はサンスクリット語で隠修の場を意味し、もともとはヨガに代表されるインド
古来の霊性の道場のことです。そこに「グルー」と呼ばれる老師がいて指導す
るわけです。インドのカトリック教会でも、このような伝統にのっとった黙想
の家のようなアシュラムがいくつもあり、私がお世話になったアンジャリ・ア
シュラムもそのひとつです。(ちなみに「アンジャリ」とは奉献を意味するそ
うです。)
アシュラムの黙想の参加者には、一人一部屋が与えられ、私にも洗面所とト
イレ付きの「庵」が割り当てられました。そこには木のベッド、小さな机と椅
子があり、手渡されたのがベッドサイズの蚊帳と枕、ゴザとブランケットです。
エ、これで寝るの?と正直思ったのですが、やはり、最初の二晩は背中が痛く
てよく眠れませんでした。ここに10日間もいるのか、と思ったら、何やら自信
がなくなってしまいました。が、住めば都とはよく言ったものです。3、4日
過ぎてみると、そこは自分にとっては最高の黙想の場所となっていったのです。
アシュラムの生活の基本は沈黙。朝は4時半に起床し5時半から瞑想。6時
半からミサがあり7時半朝食。8時半に清掃奉仕。10時半から講話。12時から
半時間の瞑想をして昼食。3時にまた清掃奉仕をして4時から講話。5時には
ヨガの体験。6時半に瞑想し7時半に夕食。8時から分かち合いをやって9時
半には就寝します。ミサには、ヒンズー教の国らしい典礼様式が多く取り入れ
られ、花、水、香、ランプが象徴的に、しかもたいへん美しく用いられます。
食事は完全な菜食で、肉類・卵は一切出ません。主食はごはんだったり、小
麦粉を練って薄く伸ばしたものを焼いたチャパティだったりで、カレーのルー
をつけて食べます。カレーといっても、日本のカレーとは違って、豆や野菜が
入ったスープのようなものです。床に座って手で食べるのに、最初はなかなか
なれませんでしたが、幸い味付けも外国人の私に合わせてくださったのか、辛
くもなく、毎食のカレーのバラエティーの豊かさも手伝って、食事の時間が毎
回楽しみなほどでした。
今回の黙想会の参加者は10名。司祭や神学生、シスターや一般の信徒の方も
いらっしゃいました。外国からの参加者は私だけです。沈黙の生活の中でお互
いのことを知り合うことはほとんどないのですが、共同生活の力というのはす
ばらしく、いっしょに同じ釜の飯を食べていれば、おのずと連帯感が生まれて
くるものです。黙想会の終わりに近づくにつれ、同じ家族のような絆が生まれ
るのを感じました。
このアシュラムでは、カトリックだけでなく、宗教の別なく多くの人が訪れ
ると言います。じっさい地元のヒンズー教の方とのミサを体験したのですが、
互いに尊敬し合う心が感じられ、ヒンズー教の伝統を多く取り入れているアン
ジャリ・アシュラムの、宗教間の交わりの実践を目の当たりにしてきました。
南インドは、ケララ州を中心に紀元前からユダヤ人との交易があったり、キ
リストの12人の弟子の一人、聖トマスがやってきて宣教しキリスト信者も増え
ていったり、その後イスラム教も入ってきたりしたのですが、北インドと違っ
て宗教間の対立や紛争がほとんどなく、むしろ上手に共存していったことが特
色に挙げられるようです。
私自身、現在住んでいる地元の「山形県宗教者懇話会」などの活動を通して、
仏教、神道、新宗教(立正佼成会)の方々との関わりを深めつつあるところで
すが、今回のアシュラムの体験で、祈る心に結ばれた平和の可能性を見たよう
に思います。
インドを去る前、手も足もブッダ(阿弥陀仏)のように座している高さ20セ
ンチほどの木彫りのイエス像を2体お土産に買ったのですが、1体を仲良くさ
せていただいているお寺の住職(じつは飲み友達)に差し上げたら、彼は大層
気に入り、お寺の祭壇の上の方に飾ってくださいました。そこに参拝する人々
は、じつは小さくて住職に言われるまで気づかないのですが、それがイエス像
とわかっても手を合わせてくださいます。微笑ましくもありがたいことだと思
いました。 (ちはら みちあき)
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◆新刊書・論文紹介
冒頭の「○」は単行本や雑誌、「・」は雑誌に掲載された論文を意味します。
価格は原則として総額表示としております。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜《政治・安全保障全般》〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
○藤原帰一ほか編『国際政治講座3 経済のグローバル化と国際政治』東京大
学出版会、2004年11月刊(¥2,625)xii+279頁
・飯田敬輔「経済のグローバル化と国際制度」
・古城佳子「資本移動の増大と国際政治の変容」
・樋渡展洋「国際経済交渉と政策選好」
・稲田十一「国際開発援助体制とグローバル化」
・菊地努「『競争国家』の論理と経済地域主義」
・木宮正史「経済的自由化と政治的民主化」
・・・を収録。
○増山幹高、山田真裕『計量政治分析入門』東京大学出版会
2004年11月刊(¥2,520)
○江畑謙介『情報と国家』(現代新書)講談社
2004年10月刊(\756)
○猪口孝ほか編『政治学事典』弘文堂
2004年11月刊(\6,300)
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜《アジア》〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
○中村勝範ほか著『アジア・太平洋における台湾の位置』早稲田大学出版部
2004年12月刊(\1,785)
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜《CIS・中央アジア諸国》〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
○岩崎一郎『中央アジア体制移行経済の制度分析:政府−企業間関係の進化と
経済成果』東京大学出版会
2004年11月刊(¥11,550)
○渓内謙『上からの革命−スターリン主義の源流』岩波書店
2004年11月刊(\11,550)
○グレイム・ギル (内田健二訳)『スターリニズム』岩波書店
2004年11月刊(¥2,205)
○『ユーラシア研究』(ユーラシア研究所) 第31号、2004年11月刊
(特集I:シンポジウム ロシアを見直す−今に息づく良心)
・小林俊哉「ソ連崩壊後のロシアの科学:科学技術研究人材の動向を中心に」
・中村喜和「ドミートリー・リハチョフ博士の場合」
(特集II:プーチン・ロシアを解剖する)
・高尾潤「ベールを脱いだ二期目のプーチン」
・中村逸郎「ロシア皇帝市民社会:プーチンの時代」
・白鳥正明「ロシアの財政・金融事情と改革の展望」
・小森吾一「プーチン政権二期目の石油・ガス政策」
・・・などを収録。
・半谷史郎「フルシチョフ秘密報告と民族強制移住:クリミア・タタール人、
ドイツ人、朝鮮人の問題積み残し」『ロシア史研究』第75号、2004年11月刊、
85〜100頁。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜《ヨーロッパ》〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
○岡沢憲芙・奥島孝康編『ノルウェーの政治−独自路線の選択』
早稲田大学出版部 2004年11月(\3,150)
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◆編集後記
今号はクリスマス・シーズンにふさわしく、カトリックの神父様に寄稿をお
願いしました。千原神父は実は大学院時代の私の友人です。彼はもともと修士
課程で教育学を学んでいたのですが、やがてカトリックに入信し、神学校に入
り直してキリスト教を学んだという変わった経歴の人です。◆千原神父という
か千原君が司祭になったのには驚きましたが、以前、彼のミサに参加したとき、
「聖体拝領」の際にイエス・キリストの「血」としてワインが供されるのを見
て、そういえば彼は酒豪だったなぁ、とふと思いだし、そこだけは妙に納得し
た覚えがあります。◆インドにサバティカル(研修休暇)に行ったというので、
インドとカトリックの組み合わせが興味深く、寄稿してもらいました(彼のホー
ムページに写真があります、http://www6.ocn.ne.jp/~micah/)。サバティカ
ルと聞くと、大学の世界では羨ましがられますが、さすがにカトリックは厳し
いものです。◆今年も世界の各地で紛争が続いていますが、来年が少しでも
今年より良い年になることを願っています。ご愛読くださっている読者の皆様
も、良い年をお迎え下さい。◆次号は新年1月15日頃配信の予定です。(広瀬)
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ユーラシア・ウォッチ 第57号(2004年12月20日発行)
発行元:秋野豊ユーラシア基金(代表 秋野洋子)
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http://www.akinoyutaka.org
〒151-0061 渋谷区初台1-51-1 初台センタービル803
編集責任者:広瀬佳一
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