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ユーラシア・ウォッチ 第51号【秋野豊ユーラシア基金】
発行日: 2004/9/15=====================================================================
◆◆ ユーラシア・ウォッチ ◆◆
Eurasia Watch
編集・発行:秋野豊ユーラシア基金
http://www.akinoyutaka.org
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第51号 2004年9月15日
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◇Contents◇
・エッセイ/ゆーらしあの風
コーカサスの虜(伊東孝之)
・文献情報
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■エッセイ/ゆーらしあの風■
コーカサスの虜
伊東孝之(早稲田大学教授)
ロシアが自由化して間もないころ、「コーカサスの虜」という映画が封切られ
た。芸術性の薫り高い作品だった。突き抜けるようなコーカサスの青い空が美し
かった。19世紀の文学作品を下敷きにしていたらしい。それを現代風に置きかえ
ただけで意味が通じるのだから、歴史の根は深い。
コーカサスに駐屯していたロシア兵が、ふとしたことで敵の手に陥る。山岳民
族のゲリラ部隊の捕虜となる。そのゲリラ部隊から地元の老人が男を譲り受ける。
老人は自宅の前の大きな穴に男を放り込む。それはおそらく捕獲した熊を飼って
おくための穴だった。小さな女の子が男の世話をする。
老人の魂胆は、男をロシア軍の捕虜となった息子の交換条件として使うことだ
った。すべては国家の政策のせいなのだが、問題を個人ベースで解決するつもり
なのだ。いかにも前近代的なやり方である。男の母親の住所を聞き出し、条件を
知らせる。当局とかけあって自分の息子を釈放することに成功するなら、あんた
の息子さんを自由にしてやろう。さもないと殺すぞ。
母親は現地に飛び、件のコーカサス人が捕虜となっている部隊を突き止め、必
死になってその釈放を実現しようと努力する。しかし、ある日収容所で揉めごと
が起き、それに巻き込まれてコーカサス人は殺されてしまう。
その知らせを受けた老人は、男を穴底から引き出し、山に連れて行く。自分が
なんで捕まり、今なんで引き出されたのか分からないロシア人はまぶしそうに美
しいコーカサスの山々を眺める。その男へ老人は銃を向け、静かに照準を定める。
しかし、…さいごに老人は引き金から手を離し、男を自由にする。
たしか、こういうストーリーだった。美しい自然を背景に人間の悲劇が繰り広
げられてゆく。映画は大きな感動を呼び起こしたが、監督はやがて批判を浴び、
映画も忘れられてゆく。というのは、ストーリーが明らかにコーカサス人に同情
的だったからである。1990年代の初めには、ロシア知識人の間にまだチェチェン
人を理解しようとする努力があった。経済がどん底にあり、映画界が不振を極め
ていた時代に、まだこんな映画を作ろうという気概があった。
最近、ロシアでテロがあったという報道がある度に憂欝となる。必ず大量死に
結びつくからだ。ロシアの現実は人情話の好きな日本人にはなかなか理解しがた
い。テロリスト側にもロシア当局側にも人命尊重の考え方がまるでない。今度も
ベスラン事件の最初の報道を聞いたときに、また何百人も死ぬな、と思った。そ
れが的中してますます救いがたい思いに囚われている。誰も彼もギリシア悲劇の
登場人物のように運命の女神に魅入られて大団円に向かってまっしぐらに進んで
ゆくのだ。
今日の事態に責任があるのは誰かといえば、やはりロシアの歴代政府といわざ
るを得ない。人口わずか70万の小民族はすでに人口の1割以上を殺されている。
とりわけプーチンには責任がある。プーチン政権はチェチェン戦争とともに始ま
った。ロシアが最初からチェチェンの独立を認めておれば、事態はこのように大
きな悲劇を招くことはなかっただろう。
ロシアは弾圧したことによって、チェチェン側に責任ある主体が形成されるの
を困難にしてしまった。チェチェン人はもはや一つではない。いくつかに分かれ
てテロを競っている。反ロシアのマスハードフ正統政府ももはや事態をコントロー
ルしていない。
テロは死の美学だ。なんの具体的な成果も生まないだろうが、その美学に取り
憑かれる人間が続くかぎりはなくならないだろう。あの、最後に引き金を引くの
を思いとどまった老人はもういないのだろうか。 (いとう たかゆき)
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◆新刊書・論文紹介
冒頭の「○」は単行本や雑誌、「・」は雑誌に掲載された論文を意味します。
価格は原則として総額表示としております。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜《政治・安全保障全般》〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
○『国際問題』(日本国際問題研究所) 2004年9月号
(焦点:国連改革の新動向)
・コフィ・アナン「新世紀における新たな国連」
・大芝亮「グローバル・ガバナンスと国連:グローバル・コンパクトの場合」
・坂本一哉「国連安保理改革と日本の立場」
・藤田久一「国連改革の歴史的展開と意義」
・・・などを収録。
○『中央公論』2004年10月号
(特集:日本の領土・日本の防衛)
・茅原郁生「中国の海洋進出、その軍事的意図」
・竹田いさみ「日本が主導する『海洋安全保障』の新秩序」
・加藤朗「テロ時代に有効な安全保障とは何か」
・丹波実「北方四島返還はどのように交渉すべきか」
・・・などを収録。
○ジョセフ・S・ナイ (山岡洋一訳)『ソフト・パワー:21世紀国際政治を制する
見えざる力』日本経済新聞社
2004年9月刊(¥2,100)272頁
ISBN: 4532164753
本書の原書は、既に当メルマガ第42号(5月1日配信)で、鶴岡路人さんにより
紹介されています。下記のURLからご覧下さい。(事務局)
http://backno.mag2.com/reader/BackBody?id=200405012120000000091758000
・彦谷貴子「シビリアンコントロールの将来」『国際安全保障』(国際安全保障
学会)第32巻第1号(2004年6月)、21-48頁。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜《アジア》〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
○『アジ研ワールド・トレンド』(日本貿易振興機構アジア経済研究所) 第108号、
2004年9月刊
(特集:総統選挙後の台湾)
・若林正丈「二〇〇四年台湾総統選挙と政治再編」
・小笠原欣幸「第二期陳水扁政権の発足と立法委員選挙の見通し」
・竹内孝之「中台関係:直接対峙から多国間関係における競争へ」
・渡辺剛「米台関係:住民投票による揺らぎと堅調な軍事交流」
・松本充豊「『黒金』問題への取り組み:『権威主義の遺産』との闘い」
・・・などを収録。
・ジョージ・ギルボーイ「『中国経済の奇跡』という虚構:政治改革なくして、
近代化は完遂しない」『論座』(朝日新聞社) 2004年10月号、276〜288頁。
・オービル・シェル「『民主国家中国』の幻の遺産」
『論座』2004年10月号、289〜295頁。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜《中 東》〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
○保坂俊司『イスラム原理主義・テロリズムと日本の対応:宗教音痴日本の迷走』
北樹出版
2004年8月刊(¥2,310)232頁
ISBN: 4893849670
・ラリー・ダイヤモンド「イラク占領の何が問題だったのか:CPA顧問が振
り返る占領の深層」『論座』(朝日新聞社) 2004年10月号、248〜265頁。
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◇◇◇お知らせとお願い◇◇◇
「ユーラシア・ウォッチ」は、2002年6月の創刊以来、お陰様で前号で50号を
数え、読者数も600人に達しています。そこでこれを機に一層の内容充実を図る
ため、広く読者の皆様からの情報提供をお願いしたいと思います。
具体的には、イベントの紹介(公開の研究会、講演会、シンポジウムなど)、
書評(論文でも著書でも可)およびご自身の研究の紹介(論文でも著書でも可)
などです。いずれも2000字程度でお願いします。書評につきましては採用の場合、
ささやかながら薄謝(図書券2500円分)をさしあげます。原稿は随時受け付けて
います。
原稿の送付先:news@akinoyutaka.org
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◆編集後記
日常、ずいぶん不健康な生活を送っている学者のはしくれとして、私は先日、
東京の表参道にある有名な精進料理の店に行って参りました。ここのご主人の
棚橋さんは、実は私の大学の二年後輩で、いったん民間会社に就職したのですが
食への思い止みがたく、一念発起して精進料理の道に入り、3年間尼寺に通って
修業をしたという経歴の持ち主。◆2年前に放映されたNHK朝の連続ドラマで、
天才的味覚を持った父親の血を譲り受けた娘が、やがて精進料理に目覚め、熊野
の山奥に独創的な精進料理の店を開くという「ほんまもん」という話がありまし
たが、あの番組の料理監修および役者さんへの料理指導を行ったのが棚橋さん。
番組をご覧になった方は、毎回、新鮮な野菜を使い創意工夫にあふれた精進料理
の数々に目を見張ったに違いありません。あの料理も、ほとんど棚橋さんのオリ
ジナルだったそうです。◆お店ではお品書きなどなく、料理はすべておまかせ。
機械を一切使わず、すり鉢などで4時間かけて作るという「ゴマ豆腐」がスター
ター。次いで松茸をふんだんにつかった季節の野菜の炊き合わせ、栗ご飯などが
続々と登場しますが、巨峰の天ぷら、レンコンのすり下ろし団子、洋なしのスー
プ仕立てなど、素材を生かしながら意表を突いたような皿もあり、それがまた絶
妙なアンサンブル。デザートは焼きバナナをゼラチンで固めて白みそとデラウエ
アをかけたもので、ひたすら感嘆。◆料理を簡単に済ませる現代の合理主義的傾
向に警鐘を鳴らし、「手間をかけることは心を入れること。いただく側はその心
をいただく」という棚橋さんは、料理人である以上に日本の食文化のいわば伝道
師として、国内はもとよりロンドン、ニューヨークなどへも招かれ、講演・実演
を行っているとのことです。◆ところで帰り際、玄関まで送って下さった棚橋さ
んの目の前で、長時間、畳の上で座っていたためか右足がぐらっとふらついてし
まいました。すかさず「痛風ですか?」。さっ、さすが、「前世は野菜だった」
と断言する食の伝道師、そのするどい霊感ゆえか、わずかな所作で私の病気まで
見抜くなんて、と心のなかで完全に脱帽しかけ、「ええ、まぁ、でもどうしてお
分かりに?」と答えたところ、ニヤッと一言「えっ、本当ですか?フフフ、では
毎月お越しいただかなければ」(!)むむ、野菜の心だけでなく、商売の心にも
少しは通じているようです。◆次回は10月1日頃に配信の予定です。 (広瀬)
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ユーラシア・ウォッチ 第51号(2004年9月15日発行)
発行元:秋野豊ユーラシア基金(代表 秋野洋子)
E-mail: info@akinoyutaka.org
http://www.akinoyutaka.org
〒151-0061 渋谷区初台1-51-1 初台センタービル803
郵便振替02740−2−3000
編集責任者:湯浅 剛・広瀬佳一
★このメルマガはインターネットの本屋さん『まぐまぐ』(マガジンID:91758)
および『メルマ!』(マガジンID:m00119358) の発行システムを利用していま
す。送付先変更・配信解除は、下記のURLからいつでも可能です。
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★ご意見・ご感想はnews@akinoyutaka.org までお寄せください。
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