晴れの日には雨が恋しくても、雨が降れば雨を嫌うように、つらい時を過ごすことは私たちにとって耐え難い。風が吹けば、少々なら好まれても、強いときには嫌われる。つらい時をやり過ごすためにはどうしよう?そんなことを考えながら、書いています。
- 最新号:2008-10-04
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風のまがりかど その4
発行日: 2004/10/17
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〜*’
風のまがりかど
その5.
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♪落ち葉がまちに・・・
−その5 翻訳ということ−
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一ヶ月ぶりになりました。一回分すっとばしたことになります。すみません。
その間、私はドイツ語の小説を日本語に翻訳するという作業にかかずらっておりま
した。仕事としてではなく、賞に応募するためです。その中で思ったこと、感じた
ことを今回は書いてみようと思います。
まず、つくづくと思い知らされたのが、不可逆性ということです。これは何かと言
うと、たとえば英語に翻訳された文章は再度日本語に翻訳された場合に、元には戻
らない、ということです。数学的に言えば、A→A’なのにA’→Aとはならない
わけです。
どうしてならないのでしょうか?私の思う理想的な翻訳というのは、今の数式のよ
うに元に戻せるものでした。いや、出来ないような気はしていても、やはり原作者
の気持ちに立てば、A’→Aにならないとまずいのではないかという気がしたので
した。しかし、翻訳の作業に真剣に取り組めば取り組むほど、それは無理だと言う
ことがはっきりしてきたのです。
それは、きっとそれぞれの言葉の奥にある文化のかたちが全く違うということに、
あると思われます。これがもし、英語とドイツ語、フランス語ならもう少し事情は
異なるかもしれませんが、日本語の文章の成り立ちからして動詞が最後に来るなど
どうしても語順を同じにできないなど、そのまま置き換えられないことが多く、そ
れがそういうことになる理由だと思います。
少し堅苦しくなってきました。例を挙げてみます。「おはよう」と「Good morning」
「Guten Morgen」は一見みな同じように思われますが、ことはそう単純ではありま
せん。「おはよう」だって、「おはよー」「おはようさん」「おはようございます」
など実はバリエーションがいくらでもあります。私はこの訳していく中で、主人公
のわたしを「私」にするか「わたし」にするかずっと考えていました。
まるで、本物の翻訳家のようなことを書いていますが、真剣に考え出すととんでも
ない手間のかかる作業だと言うことがよくわかりました。今までに、何回か日本語
に直す作業自体はしたことがありますが、今回は比較的長い文章だったこともあっ
て、痛切にそれを感じさせられました。
英語で言えばweにあたるwirという単語が1頁で10回以上出てくる場合、いちいちそ
れを「私たち」と訳していたら読む人はにうんざりしてしまいます。第一、訳して
いる人間がうんざりしているくらいだから。こういう場合は、読みやすくするために
略して訳さない、そうベテランの翻訳家はいいます。そうだと思います。でも、そう
すれば、A’はAに戻らないのです。こなれた日本語に直せば直すほど、意味内容は
近づきますが、文章の表層構造は変わっていきます。
ほんとうにどこまで行っても終わりのない、完璧はあり得ない作業です。ならば、せ
めてベストに近いベターを探すしかありません。それで、思うのですが、新潮文庫に
ヘミングウェイの短編集が3巻であるのですが、この訳が本当にすばらしいと私は
思っています。
この訳者は高見浩さんという方で、数年前にこの短編集を訳されています。はじめ、
この短編集を読み始めたときに、私の中には古いアメリカがすうっと見えてくるよう
な気がしました。情景、といったらよいのでしょうか。この短編集には会話部分も
多いのですが、実にスムーズで自然です。思わず、小説の中に引き込まれる力があり
ます。
まあ、こんなベテランの人に近づこうなどということがおこがましいのですが、それ
にしてもこんな文章を読むとうれしくなります。翻訳で読んでいることを忘れさせて
くれる作品です。明治初期の頃、翻訳はそうとうに拙いものでしたが、それは昭和に
なっても事情はあまり変わりませんでした。しかし、通信技術の発達や交通の発達に
よって、文化の交流が頻繁になり人の往来も以前と比べものにはならなくなりました。
その結果、翻訳の技術は格段に進歩したと思います。
今回、翻訳している中でわからない単語が数回出てきました。辞書のどこにも載っ
ていない単語でした。ところが、インターネットで検索すれば、たちどころに例文
がさっと出てきます。それを読んで意味をつかむことができました。これはまさし
く魔法の杖のようです。ただし、便利さはつねに両刃の剣です。そのためにバック
ボーンにある文化を忘れて、安易に単語をはめこんでいっても小説の奥にある作者
の世界に近づくことは出来ないと思います。
つまるところ、もし自分が作者だったらここでどう表現したいのか、それをずっと
念頭に置いてやったつもりですが、どれだけ伝えられるのでしょうか。日本語の表
現能力の低さに途中で嫌気がさしたりしましたけれど、よき日本語の使い手である
ことは、よい翻訳の基本条件であると思われます。よい日本語を書くためにこれか
らも努めていかなければ、とつくづく骨身にしみた体験でした。これからも、よき
日本語をめざして頑張っていきたいと思います。
<しみじみと次回へ
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■ 2004年10月17日(日曜)発行
□ 発行者:まがりかど人 mailto:meer@aug.email.ne.jp
■ バックナンバー http://www.asahi-net.or.jp/~fv2y-mrs/magarikado.htm
□ マガジンID 『まぐまぐ』:0000135635 & melma!:m00118412
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