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晴れの日には雨が恋しくても、雨が降れば雨を嫌うように、つらい時を過ごすことは私たちにとって耐え難い。風が吹けば、少々なら好まれても、強いときには嫌われる。つらい時をやり過ごすためにはどうしよう?そんなことを考えながら、書いています。




風のまがりかど その40

発行日: 2006/4/16

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                   風のまがりかど

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            −その40−
          どこかにその感情が・・・

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いつごろからかはわからないが、私はその感情を失ってしまった。そのことに
気が付いたのは、ある夕暮れのことだった。ずっと以前に瞬間的にではあるが
目の前を通り過ぎていったことがあるのを、まだ私は覚えている。しかし、そ
れさえもうずっといぜんのことだ。

その感情が立ち上ってくると、いい知れぬ親しさと同時に自分が生まれたころ
のあたりを包んでいたものが、すうっと立ち上がってくるような感覚に浸され
るのだった。それは河口に注ぐ水が、はるかかなたの源泉を、こんこんと湧き
出る水源を思いめぐらすのに似ていた。


その源にもはや戻ることは不可能にしても、そのはるか昔のことを思い出すこ
とは許されてしかるべきだと水は考えた。たとえそれが大海のずっと深い底で
あったとしても、その思い出を抱いていることは別に誰かに迷惑をかけるわけ
ではないのだ。

しかし、様々な人工的な物質に出会うと水はひどい疲れを覚えた。疲弊がひど
くなればなるほど、自らがすり減っていくのを感じていた。すさんで擦り減っ
た全身はやがて分解していく感覚に包まれた。重い金属や刺すような化学物質
が身体を切り刻んでいった。

それにつれて、抱えていた感情もばらばらになっていった。まだどこかに残っ
ていると思っていたものが、すでに自分から離れてしまっていることに気付い
たときは、痛切な悲哀を感じずにはいられなかった。身体だけではなく、心が
剥落していくような気持ちになった。

流されるままに身を預けているうち、みずからがどこにいるのかわからなく
なっていた。海底に沈んでいくのだろうと思い込んでいたのが、どうやらそ
うではないらしい。流れは、ときには速く、ときにはほとんど静止している
かのように遅くなった。しかし、いつもわずかではあっても動いていて、止
まることはなかった。

抱えているものが何もなくなり、どこへ迷い込んだのかもわからなくなった
ころ、ふと出遭ったものの中に、かけがえのない匂い、あるいは身振り、あ
るいはまなざし、いや名状しがたいなにかとても微妙で特別なものを感じた。

そしてそのとき、あの生まれ出たところを思い起こさせる、その感情を思い
起こしたのだった。失うものなく行くあてなきところで、確かにその感情に
出会ったのだった。すべてが生まれたところ、自分にしかわからないところ、
あたたかく何もかもが安心に包まれておだやかな雰囲気に包まれているとこ
ろ。

あるいは、水はもう蒸発して海の中にはないのかもしれなかった。すでに雲
の中でふたたび地上に降り注ぐ準備をしているのかもしれなかった。しかし
そのなつかしい記憶はあたりに満ちていて、もう自分を煩わすものはなにも
感じられなかった。すべてが、悪夢のように、思われるのだった。

また、気付くと水は流れていた。どこを流れているのかはわからなかった。
あまりにも景色は変わり、あるいは暗渠の中を流れているのかもしれな
かった。暗い流れの中で、しかし、不思議な感覚を抱きながら流れていく
のだった。




< 緑が木々の枝に降りかかる季節。

 ==  ==  == * ==  ==  ==  ==  == * ==  == ==  ==  == * ==  == ==  = 
 ■ 2006年4月16日(日曜)発行
 □ 発行者:街角の風   mailto:meer@aug.email.ne.jp
 ■ バックナンバー  http://www.asahi-net.or.jp/~fv2y-mrs/magarikado.htm
 □ マガジンID 『まぐまぐ』:0000135635 & melma!:m0011841
 ◇ 配信システム: 『まぐまぐ』ID:0000064023 http://www.mag2.com/

 
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