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JOG-mel No.533 裁判員制度 〜 国民不在で「司法の民主化」!?

発行日: 2008/2/3

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■1.某大学のディベート・クラブにて■

    司会 本日のディベートは、裁判員制度の是非をめぐって行い
          ます。賛成派は法学部4年のA君。反対派は経済学部3
          年のB君です。それでは、まずこの制度の目的は何か、
          という点から、A君、お願いします。

    A  裁判員制度の目的は、2つあります。第一に司法におけ
          る民主主義の確立です。プロの裁判官が「お上」として
          司法を行うのではなく、市民が裁判に参加してこそ民主
          主義社会だと言えます。同時に市民も裁判に参加するこ
          とによって、法や司法に関する意識が向上します。

           第二は実社会を経験している一般市民の参加によって、
          社会経験の乏しいプロ裁判官の判断を補い、より公正、
          客観的な裁判を実現しようとするものです。

■2.「司法の民主主義」?■

    司会 それではB君。反論をお願いします。

    B  まず第一の「司法の民主主義」についてですが、裁判に
          直接市民を参加させる事が「司法の民主主義」と言うな
          ら、立法においても一般市民は市議会などに直接出向い
          て、法律作りに参加していないわけですから、「立法の
          民主主義」も無いことになります。

          「立法」という高度に専門的な業務は一般市民ではでき
          ないから、それを専門の議員にさせ、その議員を市民が
          選挙で選ぶというのが、間接民主主義の考え方でしょう。
          同様に「司法」という高度に専門的な業務は一般市民に
          はできないから、専門家の裁判官に任せ、その裁判官を
          市民が選ぶというのが、司法の間接民主主義と言えるの
          ではないでしょうか?

    A  しかし、議会の議員は我々が選挙で選びますが、裁判官
          を選ぶ選挙はありません。司法においては、間接民主主
          義すらないのです。

    B  いえ、現行憲法においては、衆議院選挙の時に最高裁判
          所の裁判官を、国民審査にかけて信任を問います。「司
          法」における間接民主主義は、こういう形で実現してい
          ると言えます。

           地方裁判所や高等裁判所でおかしな裁判が頻発すると
          すれば、それらは最終的に最高裁判所で問われるわけで
          すから、最高裁の裁判官を信任投票にかけることで、司
          法全体の信任を国民に問うことができるわけです。

■3.「直接民主主義でないとダメ」?■

    A  しかし、最高裁判所の裁判官が誰か、どんなことをして
          いるのか、なんて、我々一般市民はみんな知らないじゃ
          ないですか。それに今まで国民審査で否認された裁判官
          は一人もいません。この制度は形骸化しています。

    B  我々が最高裁判所の裁判官に名前を知らない、しかも今
          まで一人も否認された裁判官がいない、というのは、一
          般市民が問題視するようなひどい裁判官がいなかった、
          ということなのかも知れません。

           いずれにせよ、それは現在の間接的な司法民主主義が
          機能しているかどうか、どこをどう改善するか、という
          別の問題であり、そういう問題を論ぜずに、一気に市民
          が裁判に参加するという直接的な形でなければ、「司法
          民主主義」でない、というあなたの主張は論理的に飛躍
          しています。

■4.非民主主義的裁判が実際に起こっているのか?■

    B  そもそも「司法の民主主義」と言いますが、現行の間接
          民主主義的な制度で、市民が直接チェックすべきひどい
          裁判が、実際に起こっているのでしょうか?
    
    A  起こっています。たとえば、一度、死刑が確定した事件
          が再審された結果、無罪判決となる、というようなメチャ
          クチャなケースが何度も起きています。こんな裁判では
          無実の人が死刑になっていた所なのですよ。これも第2
          の理由で述べたように、社会の常識を知らないプロの裁
          判官のみが判決を下すという非民主的な制度のためです。
          一般の市民が健全な社会常識を持って判決に加わってい
          たら、こんな事にはならないでしょう。

    B  それは戦後間もなく、昭和20年代から30年代にかけ
          て起きた4つの冤罪事件、すなわち財田川事件、免田事
          件、松山事件、島田事件の事ですね。もう半世紀も前の
          事件です。

           これらはいずれも、死刑判決後に新しい証拠が出てき
          たので再審が開始され、そしてその証拠に基づいて無罪
          判決が下されたのでした。判決がひっくり返ったのは、
          新しい事実が出てきたからです。一般市民が判決に加わっ
          ていたとしても、同じ結果になった可能性も十分ありま
          す。

           確かに半世紀も前の事件で、当時の事実検証の方法や
          取り調べのやり方にはいろいろ問題があったでしょう。
          それならそれをまず明らかにすべきで、それをせずに市
          民参加ですべて解決する、というような主張は論理が飛
          躍しています。
    
■5.社会常識のない裁判官?■

    A  しかし、現実に今の裁判官は我々一般市民のような社会
          経験を持っていません。たとえば、『裁判員制度』[1]
          の著者・丸田隆・関西学院大学法科大学院教授は、こう
          述べています。

             日本の裁判所の裁判官は、同じような高額所得者の
            両親の子たちで、同じような進学高校で勉強し、同じ
            ような司法試験受験予備校に通い、同じような大学出
            身で、同じ研修所で同じような研修を受けて、ほかの
            職業を体験することもなく、同じような思考様式を持っ
            た仲間と、たいてい一生涯、法廷で暮らす。[1,p41]

           こういう人たちが十分な社会常識に立脚した裁判がで
          きるとは、とうてい期待できないでしょう。

    B  なんだか、19世紀の共産党員がブルジョワ階級を非難
          しているような口調ですねえ。それなら「裁判官」の所
          を「医者」に置き換えて見てください。だから手術に一
          般市民も参加させろと、主張するのですか?

           そもそも一般社会人と言っても、裁判員制度の対象と
          なる強盗殺人事件などを身近に経験している人はまずい
          ないでしょう。裁判官はそのキャリアを通じて、重大な
          事件を何度も経て、そこでの事実認定のやり方、量刑の
          判断などの専門的経験を積み重ねているのです。

■6.「君はこの場合には、被告人を終身刑にするのかね」■

    B   この丸田教授が量刑判断の難しさを自ら告白していま
          すね。教授は米国のマサチューセッツ州で、父親が12
          歳の娘と7歳の息子を性的に虐待した事件を傍聴しまし
          た。被害者の娘は「父はいま悪いことをしたと反省して
          います。どうか、父を刑務所に送らないで」と涙を流し
          て訴えました。裁判官から後で、量刑をどうすべきか、
          と聞かれた著者は、その光景に動揺していたこともあっ
          て、「被害者の意思を尊重して寛大な量刑にすべきでしょ
          う」と答えた。

           すると裁判官は、2年前に同様の事件で被害者の娘が
          「この人は父親の仮面をかぶった悪魔です。どうか彼を
          刑務所に閉じこめて一生出てこられないようにして」と、
          父親につばを吐きかけた例を話して、「君はこの場合に
          は、被告人を終身刑にするのかね」と言った。著者は反
          論できなかった、と書いています。[1,p159]

           このように量刑の判断は「法科大学院教授」でも難し
          い専門的業務なのです。

           確かに、一般社会の常識とは食い違ったおかしな判決
          も散見されます[a]。この点で、一般市民の参加で、そ
          れにブレーキをかけるやり方もありうるでしょう。逆に
          アメリカの陪審員制度でもおかしな判決が時々出ます。
          [b] 

           判決の質を上げるには、現在、どのような誤審がどれ
          ほど発生していて、どういう方法でその問題が防げるの
          か、もっと実証的な検討が必要です。

■6.裁判員の「苦役」■

    B  裁判員制度は、目的だけでなく、その実施方法において
          も大きな問題があると思います。最大の問題は、裁判員
          に選ばれた人たちの負担や心情を考慮することなく、ま
          るで「徴兵制」のように強制的にこの役目を課している
          ことです。

           ひとたび裁判員に選ばれると、平均公判回数5.8回、
          すなわち1〜2週間は、仕事を離れて裁判所通いをしな
          ければなりません。時間だけの問題ではなく、凄惨な殺
          人現場の写真を見せられたり、時には見ず知らずの人を
          死刑台に送る、という経験をしなければなりません。さ
          らには、有罪判決を受けた被告から逆恨みされて、復讐
          されるという危険もあります。

           職業裁判官が高給を受け取っているのも、プロとして
          こういう「苦役」に耐えているという面もあるわけです。
          それを一日1万円程度の報酬で、多くの素人が同じ「苦
          役」に耐えなければなりません。平成18年12月の読
          売新聞による世論調査[3]では、裁判員として裁判に参
          加したくない、という人が75%もいます。それも当然
          でしょう。

           憲法第18条には、「何人も・・・犯罪に因る処罰の
          場合を除いては、その意に反する苦役に服させられない」
          とありますが、裁判員制度はこの条項に違反している恐
          れがあります。

           さらに第19条には、「思想及び良心の自由は、これ
          を侵してはならない」とありますが、「自分は信条とし
          て人を裁きたくない」「人を死刑台に送りたくない」と
          いう人にも無理矢理、裁判員を命ずる点も、違憲の疑い
          があります。

■7.罰則・罰金に支えられた制度■

    B   裁判員制度を考えた人たちは、当然、こういう事態を
          予想していたのでしょう。国民が裁判員の「苦役」から
          逃れるのを防ぐために、あらかじめ実に様々な罰則や罰
          金を設けているのです。

           裁判員に選ばれた人が正当な理由なく公判期日に「出
          頭」しないと10万円以下の過料が科されます。単に
          「仕事が忙しい」とか「疲れたから休みたい」などとい
          う理由で、「出頭」しないことは許されないのです。

           また裁判員候補者は、裁判所からの質問票に答え、面
          接を受けて選ばれるのですが、その際にも「仕事が忙し
          いから」とか、「人を裁くのはいやだ」「自信がない」
          などという理由で拒否できません。そこで「家族の介護
          で行けない」などと虚偽の記載や陳述をすると、なんと
          50万円以下の罰金となります。

           罰則罰金は裁判が終わった後もついて回ります。裁判
          員であった人が、判決の際の評議の秘密を漏らすと、
          「6カ月以内の懲役又は50万円以下の罰金」です。お
          ちおち友人に裁判員の体験話もできません。

           こんなにガチガチに罰則・罰金で縛って裁判所に市民
          を送り込む制度が「民主的」と言えるのでしょうか。
          
■8.「働きすぎる日本人にとってはいいこと」■

    B  さきほどの丸田教授はこんな事を言っています。

             365日間で一日も休まず豆腐をつくることも立派
            だが、家族の重要なメンバーが裁判員に選ばれたので、
            それを機会に店を3,4日締めるということも、働き
            すぎる日本人にとってはいいことではないだろうか。
            [1,p175]

           大学院教授などという結構な身分で、夏休みをずっと
          遊んでいても給料を貰える人には、町の豆腐屋さんのや
          りくりの苦労などは分からないようですね。

           こういう実社会の常識を欠いた人たちが、「司法の民
          主化」のためには裁判員制度が必要だと机上の空論で主
          張し、それに従わないだろう国民は罰則・罰金で脅して
          まで、法廷に引っ張り出す。

           私は、こういう点に、どこか真の民主主義とはほど遠
          い、いかがわしさを感じるのです。まるで北朝鮮が「民
          主主義」人民共和国と自称しているような。

■9.国民がよく知らないうちに、、、■

    B   さきほどの読売新聞の世論調査では、「裁判員制度の
          仕組みについて、十分な情報が提供されていると思いま
          すか」という問いに、「そうは思わない」「どちらかと
          いえばそうは思わない」人が84%にも上ります。また
          「裁判員制度を知らない」「裁判員制度という名称は知っ
          ている」が70%近くと、大半の人がその具体的内容を
          知らない状態です。

           これほど国民生活に大きな影響を与える「裁判員制度」
          を、国民がよく知らないうちに密室的議論をして、さっ
          さと導入してしまう、というのは民主国家としておかし
          いのではないでしょうか。

           Aさんが冒頭で述べたように、裁判への国民の参加は
          やり方によっては、法や司法に関する国民意識の向上に
          効果がありうると思います。

           そのためにはどんな制度が良いのか、主権者としての
          国民自身が判断できるよう、もっとオープンな議論が国
          民の前に展開される必要があると思います。

    司会 なんだかB君の独壇場になってしまいました。A君、もっ
          としっかり賛成派としての主張ができないと、民主的な
          討論になりませんよ。
                                         (文責:伊勢雅臣)

■リンク■
a. JOG(420) 裁判官がおかしい
    反省もしない殺人犯たちに同情し、被害者遺族を無視するお
   かしな裁判官たち。
   http://www2s.biglobe.ne.jp/~nippon/jogbd_h17/jog420.html
b. JOG(139) ジュラシック・パーク・アメリカ
    法は牙、裁判は爪。無法の訴訟ジャングル・アメリカの「肉
   食恐竜」弁護士が日本を襲う。
   http://www2s.biglobe.ne.jp/~nippon/jogbd_h12/jog139.html

■参考■(お勧め度、★★★★:必読〜★:専門家向け)
  →アドレスをクリックすると、本の紹介画面に飛びます。

1. 丸田隆『裁判員制度』★、平凡社新書、H16
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4582852327/japanontheg01-22%22
2. 西野喜一『裁判員制度の正体』★★、講談社現代新書、H19
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4062879034/japanontheg01-22%22
3. 「裁判員制度」  2006年12月調査(面接方式)
http://www.yomiuri.co.jp/feature/fe6100/koumoku/20070106.htm

■ 編集長・伊勢雅臣より

     読者からのご意見をお待ちします。以下の投稿欄または本誌
    への返信として、お送り下さい。
     掲載分には、薄謝として本誌総集編を差し上げます。
    http://www2s.biglobe.ne.jp/~nippon/jog/jog_res.htm

 
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