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見聞録▼193−3 人間も全ての生き物も、たった一つの細胞から生まれた(FIN)
発行日時: 2008/3/92008年3月9日−日
今週は、2月4日(月)の夜、新国立劇場(中劇場)で催された「科学と音楽の
夕べ」で、お聞きした中村桂子氏のお話の中で、印象に残った事は「蟲愛づる
(むしめづる)姫君」の紹介である。 それは、今ひそかにブームとなっている
『源氏物語』と、ほぼ同時期に書かれたという『堤中納言物語』という古典であ
る。
平安の都に住む大納言の姫君は、小さな虫を小箱に入れ「人々の、花、蝶やと愛
づるこそ、はかなくあやしけれ。 人は、まことあり。本地尋ねたるこそ、心ば
へをかしけれ」といって可愛がる。
侍女など周囲の人は「その様な汚いものを・・と逃げ回る。 しかしこの姫は
「毛虫は、あなた方が美しいという蝶になる。 あなたがたは、蝶や花を美しい
というけれど、生きる本質は毛虫の方にあるのです。 時間をかけて見ている
と、とても愛しくなるのに、これがわからないの」と。
中村桂子氏は、この古典との出会いを通して「卵から幼虫へ、更に成虫へと変化
を追うのは、発生生物学であり、しかも見かけに捉われず本質を知ろうとするの
は、本来の科学である」と、大きな触発を受けられたというのである。
氏ならずとも、西欧で近代科学が誕生した17世紀、その600年も前に、科学
の精神を持った「いのち愛づる姫」の物語が、この日本で編み出されたという事
は、驚きである。
38億年前に生まれてから続いてきた生き物は、歴史の産物であり、時間を紡ぎ
物語を語り継いできたもの。 中村桂子氏が創発されている「生命誌」の原点
は、正に「いのち愛づる姫」にある、という事になる。
ここで、ざっとこれまでの2回を翻って、遺伝子からゲノム整理してみたい。
遺伝子で「自分」を語る事は出来ないが、自分の持つDNAの全て、つまり個人
の持つゲノムは、これまで見てきたように「唯一無二」の存在であり、「自分の
ゲノム」という表現ができる。
ゲノムは、遺伝子産物が総体として細胞ではたらくシステムを議論するのに有効
であると同時に、その細胞が集まって出来た個体の生きている仕組みを考えるの
にも役立つ。 個体の始まりは受精卵であり、両親由来のゲノムが組み合わさっ
て出来た唯一無二のゲノムの始まりでもある。
子供に自分の遺伝子を伝えると思っていると、もし子供に恵まれなかった時、そ
こで自分はつながらなかったと思う事になる。 しかし「あなたのゲノム」は生
きものの全てとつながっているのだから、子供がいないからといって「絶える」
事はないのである。
一つの個体が生きた証しとして家族や仕事などがあるのと同じ様に、ゲノムは独
自のものとして最後まではたらく。 しかし個体の死と共にそれは消える。
子どもが生まれれば自分のゲノムの一部はもちろん伝えらるが、全く同じものが
伝えられるのではないし、遺伝子の一つ一つは、多くの人が共有するものであ
る。 次の世代が生まれるという事は新しい個体が生まれるという事である。
「自分のゲノム」は、常に一代限りのものでもある。 それと同時にゲノムの中
にある遺伝子は、自分だけのものではなく、全ての生きもののつながりの中にあ
る。 自分の遺伝子を伝えると思い込んでいる人には、それでは空しいと感じる
人もいるかもしれないが、実はそうではない。 「あなたのゲノム」は、生きも
のの全てとつながっているのだから、子供がいないからといって「絶える」事は
ないのである。
今週は、「ゲノムを持って生きてきたあなた」を取り上げているが、最終の今回
は、中村桂子・山崎陽子両氏の共著「いのち愛づる姫」の解説から「人間を含め
全ての生き物は、一つの細胞から生まれた」を取り上げて、締めとしたい。
この書「いのち愛づる姫」には、次の様なオビがついている。
人間含むすべての生き物を、一つの生命がもつDNAの総体、ゲノムから読み解
く「生命誌」を提唱した生物学者、中村桂子氏。 ピアノ一台でめくるめく夢の
舞台を演出する「朗読ミュージカル」を創りあげた童話作家、山崎陽子。 世界
に満ちるいのちの気配を写しつづけてきた画家、堀文子分野を異にした三人の女
性が描きだす、いのちのハーモニー。
子供から大人まで、いのちの尊さが心に沁みる一冊である。
今日の引用資料
中村桂子・山崎陽子:共著 いのち愛づる姫
http://hb.afl.rakuten.co.jp/hgc/01f81932.ddccc361.02a700c9.da2dd44b/?pc=http%3a%2f%2fitem.rakuten.co.jp%2fbook%2f4374116%2f&m=http%3a%2f%2fm.rakuten.co.jp%2fbook%2fi%2f12045213%2f
■193−中村桂子氏の「ゲノムを持って生きてきたあなた」
▼193−3 人間も、すべての生き物も、たった一つの細胞から生まれた(F
IN)
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