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見聞録■184−1 司馬遼太郎の「21世紀に生きる君たちへ」のメッセージ(前編)

発行日時: 2007/12/25

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      『 隔日刊 心が元気になる オンリーワン見聞録 』  
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2007年12月25日(火)

司馬遼太郎は1996年2月19日、72歳の生涯を終えている。 日本の将来
を案じつつその生涯を終えている。 氏の著作のうち最初に目を通したのは、は
るか以前の事になるが「竜馬がゆく」で有った。 私事めいて恐縮だが、その4
巻に2度ばかし我が姓である「肝付」が登場してきてびっくりした記憶がある。
 
23歳から今日まで、営業中心できたので取り交わした名刺は、半端ではない。
 それでも、同姓の氏とは一度もあっていない。 旧くは警察や過って海軍でと
か、身内にとかでの話は有っても、同じ性には遭遇していない。 それほどに希
少な「姓」である

先の「竜馬がゆく」では、竜馬が幕府の重臣に面談を申し入れる時と、新撰組に
追われた時に名乗って事なきを得ている場面。 この姓は「薩摩藩」の一門の氏
であるために手が出せない、という事で司馬遼太郎は使っている。 もとより作
者の創作ながら、別の短編でも一度取り上げている。 300年に亘る島津一族
と肝付一族の勢力争いにまつわる歴史をもとに、最後に島津義弘によって決着、
以後島津家に恭順した経緯を調べての事であろう。

今回の大阪出張の合間をぬって、東大阪の「司馬遼太郎記念館」を訪ねた。 安
藤忠雄氏の設計という建物は、居宅の庭にしっくりと馴染んだ、瀟洒な建物であ
る。 その館の天井を見上げると、何とあの「竜馬」がいるではないか。 安藤
忠雄氏の設計の隠し技でもあるまいが、俗にいうところの「シミ」である。  
それにしても、偶然にしては偶然にすぎる現象である。

さて、今年最後の週は、この記念館の基調として、地下大書架の壁面に掲げてあ
る「21世紀に生きる君たちへ」を、取り上げたい。 

このテキストはありますか? と問い合わせると「上でその書を販売していま
す」という事で、早速購入したものである。 この文書は小学校6年生の教科書
(大阪書籍刊)に書かれた文章なので、本稿でも、いつもとは異なりオリジナル
そのままにとりあげたい。

一般向けに出版されたこの冊子には、司馬遼太郎氏の苦心の「直筆原稿」も掲載
されている。 文章は平易だが、その推敲の様は、尋常ではない意気込みが、滲
みでている。 

引用資料

司馬遼太郎:著  21世紀に生きる君たちへ
http://hb.afl.rakuten.co.jp/hgc/01f81932.ddccc361.02a700c9.da2dd44b/?pc=http%3a%2f%2fitem.rakuten.co.jp%2fbook%2f1103025%2f&m=http%3a%2f%2fm.rakuten.co.jp%2fbook%2fi%2f10804685%2f

■184−1 司馬遼太郎の「21世紀に生きる君たちへ」のメッセージ(前編)

私は、歴史小説を書いてきた。 もともと歴史が好きなのである。 両親を愛す
るようにして、歴史を愛している。
「歴史とはなんでしょう」と聞かれるとき、「それは、大きな世界です。 かっ
て存在した何億という人生がそこにつめこまれている世界なのです」と、答える
事にしている。

私には、幸い、この世にたくさんのすばらしい友人がいる。 歴史の中にもい
る。 そこにはこの世では求めがたいほどにすばらしい人たちがいて、私の日常
を、はげましたり、なぐめなたりしてくれているのである。

だから、私は少なくとも二千年以上の時間の中を、生きているようなものだと
思っている。 この楽しさは──もし君たちさえそう望むなら──おすそ分けし
てあげたいほどである。

ただ、さびしく思うことがある。 私が持っていなくて君たちだけが持っている
大きなものがある。 未来というものである。 私の人生はすでに持ち時間が少
ない。 例えば二十一世紀というものを見ることができないにちがいない。

君たちは、ちがう。 二十一世紀をたっぷり見る事ができるばかりか、そのかが
やかしいにない手でもある。 もし「未来」という町角で、私が君たちを呼びと
める事ができたら、どんなに良いだろう。

「田中君、ちょっと伺いますがあなたが今歩いている二十一世紀とは、どんな世
の中でしょう。」 そのように質問して君たちに教えてもらいたいのだが、ただ
残念にも、その「未来」という町角には私はもういない。

だから、君たちと話ができるのは今の内だという事である。 もっとも私には、
二十一世紀のことなどとても予測できない。 ただ、私に言える事がある。 そ
れは、歴史から学んだ人間の生き方の基本的なことどもである。 

むかしも今も、また未来においても変わらない事がある。 そこに空気と水、そ
れに土などという自然があって人間や他の動植物、更には微生物にいたるまで
が、それに依存しつつ生きているということである。

自然こそ不変の価値なのである。 なぜならば、人間は空気を吸うことなく生き
ることができないし、水分をとることがなければ渇いて死んでしまう。

さて、自然という「不変のもの」を基準に置いて、人間のことを考えてみたい。
 

人間は、──くり返すようだが──自然によって生かされてきた。 古代でも中
世でも自然こそ神々であるとした。 この事は、少しも誤っていないのである。
 歴史の中の人々は、自然をおそれ、その力をあがめ、自分達の上にあるものと
して身を慎しんできた。

その態度は、近代や現代に入って少しゆらいだ。

──人間こそ一番えらい存在だ。

という、思い上がった考えが頭をもたげた。 二十世紀という現代は、ある意味
では自然へのおそれれがうすくなった時代と言っていい。 

同時に、人間は決して愚かではない。 思い上がるという事とはおよそ逆の事
も、あわせ考えた。 つまり私ども人間とは自然の一部にすぎない、というすな
おな考えである。

このことは、古代の賢者も考えたし、又19世紀の医学もその様に考えた。 あ
る意味では平凡な事実にすぎないこのことを、20世紀の科学は、科学の事実と
して人々の前に繰り広げてみせた。

20世紀末の人間たちは、このことを知る事によって、古代や中世に神をおそれ
た様に、再び自然をおそれる様になった。
おそらく、自然に対しいばりかえっていた時代は、二十一世紀に近づくにつれ
て、終わっていくにちがいない。(この項続く)

 
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