見聞録▼179−3 集団の中で学習していく遺伝的プログラム化、それを妨げる現代(FIN)
発行日時: 2007/11/16━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
『 隔日刊 心が元気になる オンリーワン見聞録 』
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2007年11月16日(金)
動物学会の大御所である日高敏隆氏は講演会で、人間だけが他の動物の様に毛に
覆われていないる理由の推測として、次の様に述べられている。
「人間の祖先と言われるホモサピエンスが、アフリカの密林から草原に移動した
頃、身体に武器になるものが備わっていない。 その為に弱い動物を追いかけま
わして食料とし、怖い動物には石などを投げて追い払うなど、集団で走り回って
いたハンターの様な行動から、今で言うところの熱中症にならない為に、全身の
毛が退化していったのではないだろうか」
日高敏隆氏による「人間はどういう動物か」というタイトルの講演の一節に「も
うひとつ不思議なのが、人間だけが恥毛が生えている事」と、3人の美女の大画
面を見せながらの話が有った事は、前回に触れた。 氏の講演は、サービス精神
が旺盛なのか
著作よりも面白い。
その続きになるが、講演で同様の下ネタに近い話をひとつ紹介したい。
他の哺乳類、たとえばチンパンジーの例でいえばメスのお尻が赤くなるとオスは
発情する。 他の動物もオスはメスのお尻に触発される。 それは犬や猫でもわ
かる事である。 ところが四足から二本足で自由に行動できる様に進化した人間
は、互いに正面をむきあう形が自然である。 メスすなわち女の体はお尻に加え
て、美しい形のオッパイに、オスすなわち男が発情するという形になった・・と
いうのである。
成人女性のオッパイも、本来は生まれたての赤ちゃんに必要な筈だが、男が好む
のが不思議だと言えば不思議な事である。 メスの牛のオッパイをまさぐるオス
の牛など見た事がない。 ことほど左様に「人間は、まことに変な動物である」
と言われるのである。 しつこくなるが、他の動物にはなくて、唯一生えている
人間の男女の恥毛も、この伝でいえばウナズケル話ではないだろうか。
今週のテーマは、日高敏隆氏の著書から「人間──この集団で生き育つもの」に
焦点を当てている。 しかし、それは氏が著書で書かれている一部分である事を
お断りしておきたい。 最終の今回は「集団の中で学習していく遺伝的プログラ
ム化、それを妨げる現代」で締めとしたい。
集団で生き延びてきた人間の祖先であるホモサピエンス時代から、数10万年を
経た現代社会の問題点、特に親子のあり様、家族のあり様、他者とのかかわり方
について指摘されている。 それは遺伝的プログラムの具体化が現代では妨げに
なっているとの指摘である。
この現代社会の問題点、特に親子のあり様、家族のあり様、他者とのかかわり方
については、別の視点で後日取り上げる予定である事を付記しておきたい。
引用資料
日高敏隆:著 「人間は遺伝か環境か?遺伝的プログラム論」
http://hb.afl.rakuten.co.jp/hgc/01f81932.ddccc361.02a700c9.da2dd44b/?pc=http%3a%2f%2fitem.rakuten.co.jp%2fbook%2f3722667%2f&m=http%3a%2f%2fm.rakuten.co.jp%2fbook%2fi%2f11568569%2f
■179 人間──この集団で生き育つもの
▼179−3 集団の中で学習していく遺伝的プログラム化、それを妨げる現代(FIN)
前回に記述の如く、集団を形成する事によって生き延びてきた人間という動物に
は、その生き方に沿った遺伝的プログラムが組まれていると考えるのが妥当であ
る。 言い換えれば、人間の発育の遺伝的プログラムの特徴は、ネコその他の多
くの動物とは異なって、「集団の中で育つ」という点にある。
性別も年齢も違い、そしてキャラクターも違う多くの人々は、皆、それぞれに違
う振る舞いをしている。 それは全体としてみれば人間という種の動物のやって
いる事であるが、その多様性は驚くほどである。 そしてこの多様性こそ、人間
の特徴にほかならない。
狩りとか採集とか、人間が生きていくのに必要な行動も、おそらく「集団の中で
育つ事」から具体化された筈である。 大人の男は、集団で獲物をとりに出かけ
ていたと思われる。 そして、その肉をみんなが住んでいる洞窟などに持ち帰っ
て、分けあって食べていたのではないだろうか。
少し大きくなってくると、たいていの男の子は狩りについていっただろう。 そ
して男の子はすぐにそれを学習する。 狩りに来たら、獲物が出た時に大騒ぎを
してはいけないのだ、と。 そして見よう見まねで、どうやって狩りをするのか
学んでいった筈である。
子供は大人のする事をじっと見ていて、そこからつかみとったのであろう。 そ
してたちまちのうちに狩りの方法を学習し、1人前の狩人になっていったのだと
思われる。
一方、女達は狩りには行かず、食べられる植物や小さい動物、球根などを集めて
洞窟に持ち帰り、料理をする。 女の子は、球根を掘ったり植物を採ったりする
時には、どういう所へ行ったらよいかという事などを学習していった筈である。
こうして、10歳から15歳になる頃には、男の子も女の子も一人前の狩人や
食物探しの名人になり、立派な石器時代人になっていったのだろうと推測され
る。
また、集団生活をする上では、キャラクターや年齢、性別が違う人々とどの様に
付き合うかという事も、子供自身にとっても、それが最大の関心事だったろう。
大きな集団をつくる動物であった人間の社会は既にその当時から複雑で、人間
関係も極めて多様であったに違いない。
そこには「躾け」のシステムも「心の教育」のカリキュラムも無かっただろう
が、個人個人の経験と他人の行動をきっかけにする学習によって、複雑なつきあ
い方を身につけていったと思われる。 起こりうる状況は実に多様だから一対一
に対応した「生得的」な行動パターンの組み込みという事では対応しきれない。
一人一人の子供が周りの人々の行動を観察し、その意図や思いつきや疑問や、そ
してそれと結びつくいろいろな試みや、やり方を学習していくという遺伝的プロ
グラムが、最も有効な方法だったのであろう。
人間にそういう遺伝的プログラムが有ったからこそ、怖いアフリカの草原で生き
抜いてこられたのである。 その時にできた遺伝的プログラムは、容易に変わる
ものではないから現代にもその遺伝的プログラムが備わっていると考えて良い。
では、現在の人間の社会はどの様になっているか。 人間が地球に現れ、危険な
アフリカで生き延びてきた何10万年という長い間ずっと働き続けてきた学習の
遺伝的プログラムは、スムーズに具体化されうる状況にあるのだろうか。
私達は、100人、200人の大集団で生きているわけではない。 家族ごとに
家かあるいは団地の中の一室に住んでいる。 人間はいろいろなものを発明した
から、今ではがっちりした鉄の扉や立派な鍵もでき、一旦ドアを閉めたら、家の
中は家族だけしかいない閉じられた空間の中に生きている。
父親は、集団ではある意味で必ず「周りからズレている」存在である。 母親に
ついても同じ事が言える。 社会や集団の中の一人にすぎないので、やはり全体
から見れば「周りからズレている」存在なのである。
「周りからズレている」ズレた存在である父親と母親しかいない家族の中で、子
供どもが育つという事は他のもっと違う男や女がやっている事を見ずに育つとい
う事である。 それは他の人々のやっている事から学ぶきっかけを得られないと
いう事でもある。 それは非常にゆゆしき問題ではないだろうか。
他人との付き合い方にしても決して一様のものではない。 この人とはこうつき
あう。 あの人とは別のつきあい方をする。 過ってはそれをちゃんと学ぶ事が
できた筈である。 ところが現在はそれが殆どできなくなってしまった。 要す
るに家族が家族ごとに独立して生きていく事になったので、そういう様になって
しまったのである。
結果的にどういう事になったかと言えば、過ってみんなが自然に学んでいた様な
事が、学習できなくなってしまったのである。 つまり、石器時代の人々がごく
自然な形で具体化していた遺伝的プログラムを、現代は殆ど具体化できなくなっ
ている。 これは大変大きな問題ではないだろうか。
日高敏隆 (ひだか としたか)
1930(昭和5)年、東京生れ。 東京大学理学部動物学科卒業。 東京農工
大学、京都大学教授、滋賀県立大学学長を経て、現在は総合地球環境学研究所所
長。 主な著書に「チョウはなぜ飛ぶか」「人間は遺伝か環境か?」「ネコはど
うしてわがままか」「動物と人間の世界認識」など。 訳書に「利己的な遺伝
子」「ソロモンの指環」などがある。 2001(平成13)年「春の数えか
た」で日本エッセイスト・クラブ賞を受賞。
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