見聞録▼177− 3 感覚遮断によってトップの判断を誤らせる補佐役(FIN)
発行日時: 2007/11/2━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
『 隔日刊 心が元気になる オンリーワン見聞録 』
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発 行 (有) 新規事業開発 代表 肝 付 博 昭
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2007年11月2日(金)
このところ、すっかり「福田政権」という名称が、耳に馴染んできたようであ
る。 世間の空気はうつろいやすいという事なのだろうか。 本稿で取り上げて
いる今回の「組織のトップを支える補佐役の条件」も、考えてみれば本田宗一郎
と藤沢武夫氏の見事な役割分担を見れば、答えは出た様なもの。
最近では小泉首相と竹中平蔵、旧くは豊田佐吉と石田退三、松下幸之助と高橋荒
太郎、川上監督と牧野ヘッドコーチ、中曽根首相と後藤田官房長官という名が思
い出される。 ついこの間の事だが、精神的に追い込まれて突然の退陣表明され
た安部さんには、先述の人たちに見られる様な名補佐官がいなかったという事に
なるのかもしれない。 確かにその役を担った人がいるにはいたが・・という事
なのか、敢えていえば逆の役割を担った人がいたのかもしれない。
安部政権の末期、首相には重要な事柄も伝えられず「ほとんどカヤの外」状態
だったと、多くの評論家の口から後日談として喧伝されている事からも、政治権
力の世界は魑魅魍魎(ちみもうりょう)がうごめくの世界である。。
確かな事は、小田 晋氏の著書にようと、トップを狂わせる条件は「感覚遮断状
態」におけば良いという事である。
そこで、今週のテーマ「組織のトップを支える補佐役の条件」の逆説として、今
回は「感覚遮断によってトップの判断を誤らせる補佐役」を、取り上げて締めと
したい。
話は変わるが、福岡勤務の時代のある日曜日に、九州大学で開かれた「倭城の研
究」発表会に参加した事がある。 この聞きなれない「倭城」とは、秀吉におよ
る朝鮮征伐の折、加藤清正や福島、島津義弘達が、朝鮮半島に築いた「城」の事
をいう。
ついぞ耳にしない「名護屋」(唐津市)にも、ウオーキングがてら出向いたもの
である。 そこで、興味が出たついでに、有休をとって「倭城跡視察ツアー」に
も参加をした。 それまでは太閤秀吉の出世物語のせいもあって、家康よりは秀
吉びいきだったが、この研究会とツアーに参加して、海をわたりその城跡をこの
目でみて、すっかり「「秀吉嫌い」に、なってしまったのは、ご想像頂ける筈で
ある。
一体、秀吉がこの「暴挙」に出た背景は、何なのか。 4年間という短い期間な
がらながら、兵と商人含めて人口10万人、大坂城を凌ぐ絢爛豪華な名護屋城を
築いたほどの大事業をおこしてまでの「朝鮮征伐」。
当然の如く二人の人物がかかわってくる。 それは三成と家康である。 この事
については後日機会があれば取り上げるとして、石田三成が秀吉を「帝王の狂
気」に追いやった最悪の補佐役であった事は間違いないであろう。
名護屋城にご興味を持たれた方は、下記のサイトをご確認されたい。
佐賀県:名護屋城博物館
http://www.pref.saga.lg.jp/web/nagoya.html
引用資料
小田 晋:著 補佐役の精神構造
http://hb.afl.rakuten.co.jp/hgc/01f81932.ddccc361.02a700c9.da2dd44b/?pc=http%3a%2f%2fitem.rakuten.co.jp%2fbook%2f4435836%2f&m=http%3a%2f%2fm.rakuten.co.jp%2fbook%2fi%2f12081709%2f
■177 組織のトップを支える補佐役の条件
▼177− 3 感覚遮断によってトップの判断を誤らせる補佐役(FIN)
補佐役がリーダーに上がってくる情報を遮断した結果、リーダーが「感覚遮断状
態」となり、狂気に陥ってしまい、正常な判断ができなくなってしまう。 リー
ダー自身は、全ての情報を把握しているつもりでも、補佐役によって情報がフィ
ルタリングされているために判断が偏り、なおかつ本人は正しい判断をしている
と思っているので周囲の手に負えなくなるのである。
情報から遮断された場合、あるいは情報が一方的なものになった場合に、自分は
リーダーで組織を完全に掌握し、あらゆる情報が自分に入っていると思っていて
も、洗脳されているような状態になる。 これを再現する実験に「感覚遮断」実
験がある。
被験者にゴーグルと耳栓をつけさせて狭い個室に閉じ込める、時には体温と同じ
温度の液体に浮かべる。 最も極端なのはフロートカプセル方式といって、人間
の体と同じ比重の液体に浮かべて触覚も奪う。 これをやると多くの人は数十分
で幻覚が出始める。
人間は外部から情報が入ってこないと自分の中の過去の情報を引き出して、イ
メージとして知覚してしまうのである。 フロートカプセルまでいかなくても、
共産圏の秘密警察が行っていた洗脳というものは、対象を「感覚遮断状態」にし
て一方的な情報ばかりを与える事によって行っていた。
アメリカ人の学生に対する実験で、情報を遮断された被験者に、二つのテープレ
コーダーを与えるというものがあった。 これは片方に同じ内容ばかりを繰り返
すキリスト教の説法を聞かせ、もう片方はたとえ話など面白い話がたくさん入っ
たイスラム教の説法が入ったテープである。 これを一週間続けたところ、何と
この学生はイスラム教を信奉し、改宗していたのである。
昔から「帝王の狂気」という言葉がある。 帝王という地位に就いた権力者は狂
気に陥る事が多い。 権力者が頭の中で想像した事、空想した事、妄想した事を
実現できてしまうという事が問題なのである。 我々凡人も、時として突拍子も
無い事を考えたり、ありえない事を妄想したりするが、それを実現するという事
は通常ありえない。 しかし権力者には空想や妄想を実現してしまうだけの力が
ある。
その様な力は、凡人には想像もつかないような壮大なビジョンを描き、世の中を
良い方向に導くために役立つ場合もある。 しかし、権力者が誤った方向に突き
進むと、多くの人々を不幸にしてしまう。 だからこそ、強大な権力を持つ人物
ほど「感覚遮断」状態に陥ってはいけないのである。
気まぐれや思いつきを権力者が思うままに実現してしまうと、それはもはや個人
の問題ではなくなる。 今日の日本では、政治家がその様に気まぐれを思うまま
に実現してしまう事はできないようになっているが、企業のワンマン経営者がお
かしな行動に出て周囲を巻き込むことがある。
補佐役が、指導者を帝王の狂気に陥らせてしまった例としては、石田三成が日本
の歴史上で最も典型的であろう。 三成は、小姓役から秀吉の側近に上り詰めて
今日で言うところの官房長官のような役割を担っていた。 三成は、補佐役の典
型である前鬱気質というよりは、分裂気質だった様である。 非常に鋭くクール
であり、細かくて几帳面なところがある。
ただ一方で、気配りもそれなりにあったので、官房長官の役割を果たす事ができ
ていた。 秀吉亡き後の豊臣家の運営、戦略や政略を担っていたのは三成であっ
た事は間違いない。 三成の問題は秀吉と豊臣家の重臣達との間に壁を作ってし
まった事である。
加藤清正や福島正則といった古参の家臣が、秀吉と直接に話したいと思って三成
を通さないといけないという状況だった。 このあたりも今日の官房長官に通じ
るものがある。 この様な「官房長官を通さないとトップに会えない」という状
況はトップを煩わしい雑事から解放する半面、トップを「感覚遮断」状態に陥れ
る危うさをはらむ。
本来は、たくさんの情報が上がってきているのだが官房長官の段階で情報のフィ
ルタがかかってしまう。 ここで有益な情報を残して無用な情報を切り捨てると
いう事が行われていれば良いのだが、トップにとって耳障りのいい情報ばかりが
報告され、トップの機嫌を損ねるような情報がフィルタリングされてしまうと、
トップは正常な意思決定ができなくなってしまう。
同じ様な事は、米国におけるイラク開戦時にも起こっている。 ブッシュ大統領
を取り巻く人々、ドナルド・ヘンリー・ラムズフェルド国防長官やディック・
チェイニー副大統領という補佐役が、ブッシュ大統領を「感覚遮断」状態に陥れ
てしまった例であろう。 いわゆるネオコンと呼ばれる人々によって周囲にバリ
アが形成され、フィルタリングされた情報しか、ブッシュ大統領の耳には入って
いなかった事は明らかである。
その様な情報に基づいて、イラクとの戦争を決意してしまった事に気づいた時、
ブッシュ大統領は愕然としたのではないか。 当時、先のネオコンの人びとはも
ともと、父親のブッシュ大統領の側近であったベイカー国務長官やスコークロフ
ト大統領補佐官といった国際問題の専門家たちの意見を一切、息子のブッシュ大
統領から遮断してしまった。 彼らのような国際協調路線を唱える人々が、大統
領に直接接触できない状態を作り出して自分たちに都合の良い情報だけをブッ
シュ大統領に報告したのである。
小田 晋 (おだ すすむ)
1933年 大阪府生まれ。 1958年、岡山大学医学部卒。1963年東京
医科歯科大学大学院修了、医学博士。1977年筑波大学社会医学系教授。 1
997年国際医療福祉大学教授、筑波大学名誉教授。1999年より(財)社会
経済生産性本部メンタル・ヘルス研究所長。 2001年より帝塚山学院大学教
授。 著書に「独裁者の心理学一歴史を変える深層心理」(悠飛社)、「小田晋
教授の日本一わかりやすいうつの本」(はまの出版)「指導者の精神構造」(生
産性出版)、他多数ある。
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