(改題)ほぼ日刊 オンリーワン起業 見聞録 159−1
発行日時: 2007/5/15━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
『 ほぼ日刊 オンリーワン起業 見聞録 』
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発 行 インディペンデント・コントラクター(IC) 肝 付 博 昭
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2007年5月15日(火)
「リタイヤとは、将来の為に現在を犠牲にして働く事を卒業し、自己実現するために働く」
これは「超整理学」以降、超シリーズでベストセラーを次々と生み出す野口悠紀雄氏が説く「充実したリタイア後の生き方」の鉄則の様な言葉である。
満員電車で死にそうな思いをする事もなく、嫌な上司とつきあう必要もない。 子供の教育に頭を悩ます必要もない。 自分の時間は、全て自分で使う事ができる。 こうした状態は、何もせずに実現するわけではない。 準備が必要である。
では、実現に向かって何か必要か? まず経済的な基盤が必要である。 それに健康も重要である。 しかし、それだけで充実したリタイア生活を送れるわけではない。 もっとも重要なのは、「何をするか」である。
日本人は、退職後においても、かなり長い期間を生きるようになった。 「働くだけで一生終わった」とは多くの国の共通事情だが、「退職後の時間をもつ」事を実現した国民は少ない。 日本でも、比較的最近生じた事なのである。 この意味で「退職後を考える」というのは、すぐれて現代的な問題なのである。
人生は働く為だけにあるのではない。 やれる事は山ほどある筈である。 読書、旅行、園芸、音楽鑑賞、観劇等々。数え上げればきりがない。
これを可能にするのが、退職後の時期。 リタイア後こそ、人生の果実を手に入れる期間なのである。 それに向かって準備するのは、この上なく楽しい作業だろう。
そこで今週は、野口悠紀雄氏の著書、「超」リタイア術 からから、充実した高齢期を送った先人「高齢化社会の希望の星」に焦点をあてる事として、先ずは「マリエンバートのゲーテ」から入りたい。
今週の引用資料
野口悠紀雄:著 「超」リタイア術
http://hb.afl.rakuten.co.jp/hgc/01f81932.ddccc361.02a700c9.da2dd44b/?pc=http%3a%2f%2fitem.rakuten.co.jp%2fbook%2f1720706%2f&m=http%3a%2f%2fm.rakuten.co.jp%2fbook%2fi%2f11307327%2f
■159 高齢化社会の希望の星 その1
▼159−1 マリエンバートのゲーテ
1823年2月ゲーテは、心嚢炎(しんのうえん)という重い病気にかかり危篤に陥った。 医師もなす術を知らなかった。 ところが死の淵から奇跡的によみがえったゲーテは、急速に元気を取り戻したのである。 不思議な事だが、病気が若返り効果をもたらしたらしい。 肉体のみならず、精神も若返りみずみずしい情感を取り戻したのである。
この年の夏を、ゲーテはマリエンバートという温泉町(現在はチェコにある)で過ごした。 若い人々との談笑に遅くまで時間を過ごし、ダンスに興じた。 美しい女性ピアニスト、マリア・シマノフスカの演奏に感動し、涙を浮かべた。
この地でゲーテは、ある年若い女性の魅力に心を奪われたのである。 彼女の名は、ウルリーケ・フォン・レヴェツォウという。 ゲーテは15年前に彼女の母親を愛し尊敬していたし、マリエンバートではウルリーケの祖父フォン・ブレージ家に逗留していた。 ずっと前からウルリーケ・フォン・レヴェツォウに対して持っていた親の様な愛情が、突然、激しい恋愛感情に転化したのである。 彼女の声が聞こえれば、仕事を放り出し、少年の様に駆けつけたという。
妻はずっと前に死去していて独身だったゲーテは、ウルリーケ・フォン・レヴェツォウに求婚した。 しかし、結果は無残なものとなり傷心のゲーテは逃げる様にしてヴァイマールに戻った。 この時のウルリーケ・フォン・レヴェツォウは19歳だった。 ゲーテは、74歳である。 果たしてこれは醜聞だろうか? それを否定する事はむずかしい。 常識的に言えば、分別を失った老人の哀れな愚行そのものではないか。
マリエンバートという温泉町におけるゲーテについて知っているのは、シュテファン・ツヴアイクが「人類の星の時間」で、事の顛末を詳しく書いたからである。 「星の時間」というのは、人類の歴史において、「多くの事象の計り知れない充満が凝縮した瞬間」の事である。 シュテファン・ツヴァイクは、この出来事を「老人のグロテスクな血迷い」ではなく、崇高な「星の時間」と捉えたのだである。
なぜなら、ゲーテ晩年の最高傑作「マリエンバート悲歌」は、ヴァイマールヘの帰途、馬車の中で作られたからである。 「ドイツの文学は、この時ほど偉大な瞬間を、それ以来経験していない」と、シュテファン・ツヴァイクは言う。
史上最高の劇詩「ファウストの作者、並ぶ者なき偉大な文豪、ヨーロッパ最高の賢人、 そして、ヴァイマール公国の枢密顧問官。 普通なら、そうした経歴に自分自身が縛られ55歳も年下の小娘に心を動かされる事など、そもそもありえないだろう。
しかしゲーテは、経歴にも年齢にも一切束縛される事なく、全く心の赴くままに行動したのである。 そして、それがもたらした苦痛の中から、偉大な詩を生み出した。 「もはや再びマリエンバートには行くまい。 心配を知らない人々の快活な遊びの世界へは、もう決して行かないだろう」。
こうしてゲーテは、自分に残された時間の使い方を知った。 彼の心は再び「ヴィルヘルム・マイステル」と「ファウスト」に向けられ、82歳の死の直前まで、「ファウスト」の完成に身を捧げたのである。
「経済的基盤や健康も必要だが、最も重要なのは『何をするかだ』」と述べたゲーテは、熟年時代の代の鑑であり、高齢化社会の希望の星なのである。 我々のなしうるこ事はゲーテに遠く及ばないが、見習う事ならできる。 それなら、ゲーテこそ我々の先生である。
野口悠紀雄 のぐちゆきお
1940年、東京生まれ。東京大学工学部卒業後、大蔵省(現・財務省)に人省。 1972年、エール大学、経済学博士号取得。 早稲田大学大学院ファイナンス研究科教授。 専攻は経済学。「バブルの経済学」で吉野作造賞を受賞。 「超」整理法、「超」勉強法、「超」手帳法 など数々の「超」シリーズのベストセラーでも知られる。
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