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ほろびゆく日本語を憂ひて
発行日: 2005/11/22***********************************
新・ ほろびゆく日本語を憂ひて(04号)
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私が大学受験に失敗したことは前にも言いましたが、宮崎市から初めて
<都会>に受験旅行をした時のお話です。神戸から大阪に移動しようと、
阪急線の(今思えば)切符売り場で、「これは大阪に行きますか」と尋ね
ましたら、くすっと笑われ「行きますよ」と言われました。で、各駅停車
で行きました。なぜって、郷里には私鉄なんぞなく専ら<国鉄>しかあり
ません。で、急行や特急に乗るには、別に急行券や特急券が要るからです。
西宮北口(今思えば)で停車していると、反対ホームの急行に乗るために
みなぞろ移動しました。私は「切符を持っていない」ので、じっとしてい
ました。「急行券は要らないんだ」と知ったのはずっと後のことでした。
そして電車は終着駅に着きました。ところがアナウンスは<大阪>ではな
く、なんと<梅田 梅田>と言っているのです!私は飛び上がらんばかり
に驚きました。「しまった。行き先を間違えた!」と蒼白になったのでし
た。今はなつかしい笑い話です。(あはは)
<老婆心ながら.....大阪の私鉄・地下鉄などの駅名は、すべて大阪
と言わず梅田と呼称しております>
ついでにもう一つ。
高校生の頃、兵庫県の県庁所在地はどこか?と話題になり、私は<三宮>
と言い、他の子は<元町>だと言いはったことがあります。(あはは)
<老婆心ながら....三宮・元町は神戸市にあるJRの駅名です>
で、JR大阪駅の近く(梅田)界隈に「お初天神」という所があります。
過日、宇崎竜童さん(これで正しいかな)主演の「曽根崎心中」を深夜に
再放送していたので、これを見ました。で、原文を読んでみました。
次の文は、近松の「曽根崎心中」の第二章の冒頭の一節です。
まずご一読ください。
立ち迷う、浮名をよそに洩らさじと、
包む心の内本町(うちほんまち)、
焦がるる胸の平野屋に、
春を重ねし雛(ひな)男、
一つなる口(クチ)桃の酒
柳の髪もとくとくと、
呼ばれて粋(すゐ)の名取川、
今は手代と埋もれ木の、
生醤油(きじやうゆ)の袖したたるき、
恋の奴(やつこ)に荷(にな)はせて、
得意を廻(めぐ)り生玉(いくだま)の、
社(ヤシロ)にこそ著(つ)きにけれ。
「何を言うてんねん?」とさっぱり解らないでしょう? 私もそうでし
た。しかしながら、七五調の快いリズムだけは残りますよね。で、調べ
てみました。これには「あらすじ」の理解が大前提になっているのです。
・主人公の徳兵衛は、幼い時に両親を失い、大坂の内本町という所で
生醤油の商いをしていた叔父に育てられました。そこで手代として
奉公していました。その屋号が平野屋で、真面目に勤めていました。
その頃、遊郭の天満屋のお初という女と恋仲になったのです。
元々<なさぬ恋>であったのですが、お初に対する思いは日に日に
強くなっていきます。いわゆる<秘めた恋>であったのです。
そこを表わしたのが先にあげたくだりなのです。
○ 立ち迷う、浮名をよそに洩らさじと、
=どこからか噂に立ち始めたお初との浮名を、人に知られまいと、
○ 包む心の内本町(うちほんまち)、
= その<心の内>を<内本町>に<包み=秘め>て、
○ 焦がるる胸の平野屋に、
=その燃える<火>が胸を<焦がす>ような思いの平野屋で、
○ 春を重ねし雛(ひな)男、
=幾<春>も年季を重ねた<雛>男(=美男子)で、
○ 一つなる口(クチ)桃の酒
=<桃>の酒は少しはいける口であった。
* 桃の酒=桃の花を銚子に漬けた節句用の酒
* <一つの口>と<百(もも)の酒>
○ 柳の髪もとくとくと、
=髪も癖がなく美しく
* 柳=雛祭りの節句に桃といっしょに添えた
* とく=髪を<梳く梳く>と
銚子に<とくとくと>注ぐ音
○ 呼ばれて粋(すゐ)の名取川、
=徳兵衛の通り名である<徳 徳>と<名>を<取>り
<粋>な男と呼ばれていたが、
* 名取川=仙台市を流れる川。粋の名を取る意味を含む
○ 今は手代と埋もれ木の、
=今は、手代の身分でもあり甘美な恋に<埋もれて>いる、
○ 生醤油(きじやうゆ)の袖したたるき、
=商いの生醤油が袖に滴り染みている
○ 恋の奴(やつこ)に荷(にな)はせて、
=(その染みた袖をした)奴(下男)に醤油の樽を荷わせて、
* 恋の奴=今でいう「恋の奴隷」の意味。
○ 得意を廻(めぐ)り生玉(いくだま)の、
社(ヤシロ)にこそ著(つ)きにけれ。
=得意先を廻っていき、生玉神社の社に着いた。
舞台は、ここから生玉神社でのお初との再開劇が始まります。
いかがでしたか? 解説を読んでみると、なんとなく解ってくるで
しょう? もう一度声を出して読んでみましょう。
立ち迷う、浮名をよそに洩らさじと、
包む心の内本町(うちほんまち)、
焦がるる胸の平野屋に、
春を重ねし雛(ひな)男、
一つなる口(クチ)桃の酒、
柳の髪もとくとくと、
呼ばれて粋(すゐ)の名取川、
今は手代と埋もれ木の、
生醤油(きじやうゆ)の袖したたるき、
恋の奴(やつこ)に荷(にな)はせて、
得意を廻(めぐ)り生玉(いくだま)の、
社(ヤシロ)にこそ著(つ)きにけれ。
今度は少し解りますよね。近松はこのように、掛詞や関連語を駆使し
ていたのですね。最初に舞台を見た人は、何のことか解らなかったで
あろう、と解説してあり、それはそれでいいんですって。
まず耳に聞いて快いことが大事だったようです。でもきっと、二度目
からは「序曲」として大いに受け入れられたのではないでしょうか?
まして浄瑠璃の節が付いているんです。歌舞伎の「白波五人男」を想
起させます。何度も読んでいくと心地よい響きが伝わってきます。
実は!ここに登場する地名・場所は私にはとても馴染み深いのです。
私の住んでいる所から近いのです。北の方には<天満・内本町・平野
町>。お初を祭った<お初天神>があります。南には<生玉神社>も
見えます。また、人形浄瑠璃の<国立文楽座>もすぐ近くにあります。
そのためか、うちの子供たちが通った中学校では、課外授業で、人形
浄瑠璃を見学に行く習わしがあるようです。子供に聞いたら「眠たか
った」そうです。この罰当たりめ!
<僻みですが>
テレビで放映されるドラマは、ほとんどが東京が舞台になっています。
六本木ヒルズとか築地とか言われても、私には土地感がないため、一向
にイメージが浮かびません!「だからどうなんだ?!」と言われても、
答えに窮するのですが、「曽根崎心中」を読んでいると、先の地名の他
に<堂島>などが出てきてすごく「嬉しい」のです。大阪には「たこ焼
き」だけでなく、れっきとした<なにわ文化>もあったのだと再発見し
たのです。
で、せっかく読みましたので、もう少し「曽根崎心中」を続けます。
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◆岩切良信の【ほろびゆく日本語を憂ひて】叙情歌・愛唱歌から古典への誘ひ
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