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ほろびゆく日本語を憂ひて〜叙情歌・愛唱歌から古典への誘ひ

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ほろびゆく日本語を憂ひて

発行日: 2005/11/8

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                 新・ ほろびゆく日本語を憂ひて(02号)

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  <大阪には秋はありません>
 いきなり何を言うのかとお思いでしょうが、私は大阪はミナミ・道頓堀
の近くに住んでいるせいか、季節感がまったくないのです。殊に「秋」で
す。9月に入り10月の半ばになっても暑い日が続きます。11月の声を
聞くと、突然寒い日があったり、また暑い日が2〜3日続いたりします。
そうこうしている内に、長袖を着たり、またカーディガンを羽織ったりし
ている間に、いつの間にか冬の服装に変わっていきます。御堂筋の銀杏の
葉も、いつの間にかカサコソと木枯らしに舞う日が来るのです。秋の夜長
を楽しむという風情が全くないと思うのです。嫁ハンに言うたら「ほんま
やなあ」と同感してくれました。(あはは)
 そこで今回は、みなさまの秋を羨ましく思いつつ、秋の花のつれづれを
書いてみます。先ずは「紫式部日記」から。

 ⇒ □ 女郎花(をみなえし)

        紫式部日記・渡殿の戸口の局
 
 渡殿(わたどの)の戸口の局(つぼね)に見出せば、
      * 渡殿の戸口の局に=作者の部屋で
      * 見出せば、=外を見ていると、
ほのうち霧りたる朝(あした)の露もまだ落ちぬに、
   * ほのうち霧りたる朝に=うっすらと霧がかかっている朝に
   * 露もまだ落ちぬに=まだ露も落ちない早朝なのに
殿ありかせたまひて、御随身(みずいじん)召して
   * ありかせたまひて=庭を散歩なさって
   * 御随身召して=随身をお呼びになって
遣水(やりみず)はらはせたまふ。
   * はらふ(払ふ)=きれいにする
橋の南なる女郎花(をみなえし)のいみじうさかりなるを、
   * 〜なる=〜に在る
一枝(ひとえだ)折らせたまひて、几張(きちやう)の上(かみ)より
さしのぞかせたまへる御さまの、いと恥づかしげなるに、
   * いと恥づかしげなるに、=自分が恥しく感じられる程に
                (ご立派でございましたので)
わが朝顔(あさがほ)の思ひ知らるれば、
   * わが朝顔の=私の寝起き顔の(見苦しさ)が
   * 思ひ知らるれば、=思い知らされるので、
「これ、おそくてはわろからむ」とのたまふするにことつけて、
硯のもとに寄りぬ。
  <注> 殿が「(返事が)遅くなってはいけない」と言われたので、
     それにかこつけて、急いで硯のある所に走ったのです。
     いつまでもそこにいたならば、<朝顔>がばれるでしょう?
          そして急いで次の歌を詠みました。

 ・ 女郎花さかりの色をみるからに
     露の分(わ)きける身こそ知らるれ
  <解説> 
   ⇒ 露の分きける身
  露が降りている女郎花は、それでなくても瑞々しく美しいいもので
  す。しかし、露の分きける身(=まるで露が分け 隔てをしているか
  のように瑞々しさを失った私(=盛りを過ぎた私)
   ⇒ (身こそ)知らるれ
  (その醜い姿が)思い知らされます 
  <参考>〜こそ
    已然形でつなぐ、いわゆる「強調」の係り結びの法則でしたね。   
    (.o.)♪ 今<こそ>別れ<め> → 今こそ別れむ

「あな疾(と)」ほほ笑(ゑ)みて
      * 「あな疾」=(殿が)「おや、返歌がいやに早いね」
        (.o.) ♪ 思えばいと<疾し>この年月
  ・ 白露(しらつゆ)は分きてもおかじ女郎花
      心からにや色の染むらむ
  <解説>
   ⇒ 白露は分きてもおかじ
  いやいや、白露は分け隔てなんてするものですか。
   ⇒ 心からにや色の染むらむ
  自分から美しくなろうとするからこそ、女郎花は盛りの色に染まるん
  ですよ。(だから、あなたもその気になってください。そうすれば
  今でも美しいんだから、もっと美しくなりますよ)

 女性って、こう言われると<嘘でも>嬉しいんですってね。
ぐじゃぐじゃ解説しましたので、もう一度,歌だけ味わってください。

   ・ 女郎花さかりの色をみるからに
      露の分きける身こそ知らるれ
   ・ 白露は分きてもおかじ女郎花
      心からにや色の染むらむ

 
 ⇒ □ 秋萩
         大和物語  
       百六十   秋萩

 おなじ内侍(ないし)に、在中将(ざいちゆうじゃう)すみける時、
中将のもとによみてやる。  * すみける時=通っている時
  ・秋萩(あきはぎ)を色どる風の吹きぬれば
      人のこころもうたがわれけり
  <拙訳>
 いよいよ萩の色を色づかせる秋風が、吹いてきましたので、人の心も=
 あなたの心も、私に、秋(飽き)が来たのでは? とお疑いいたします。

とありければ、
  ・秋の野を色どる風は吹きぬとも
      こころはかれじ草葉(くさば)ならねば
  <拙訳>
 <その>秋風が吹いて、草葉は色づき、やがて枯れていくでしょうが、
 私の心は離れてはいきませんよ。だって私は草葉ではありませんもの。

 うまいですねえ! 古の日本人は、自然と季節と人の心を一体として
捉えていたんですよね。こういう心を大切にしていたならば、公害も地球
温暖化も問題視することなかったのに。どこで狂ったんでしょうか。これ
は世界に誇れる日本人の持つ文化なのです。そういえば、私たちは、「虫が
鳴いている」といいますが、外国人にとっては「虫は鳴かない」のですって。
つまりね、鳴く(泣く)のは口を使うからだそうです。虫の「声」は、羽根
をこすって出る「音」だからそうです。無粋ですよね。
ではもう一度,歌だけを。

   ・秋萩を色どる風の吹きぬれば
      人のこころもうたがわれけり
   ・秋の野を色どる風は吹きぬとも
      こころはかれじ草葉ならねば

 ⇒ □ 紅葉(もみじ)
           大和物語
         四十七 奥山のもみじ

 陽成院(やうぜいゐん)の一条の君、
  ・おく山に心をいれてたづねずは
      ふかきもみじの色を見ましや

 この歌は、私がそうであったように、最初は何を言っているのか解らない
でしょう? これは、うわべだけを見て、本当の自分の心を知ろうとしない
男に対して、恨みがましく詠んだものだそうです。また次の<解説>を読ん
で、もう一度歌を味わってみてください。
     * 心を入れて=熱心に・本気で
     * たずねずは=尋ね求めなかったならば
         → 〜は=(否定語を伴い)〜ならば(仮定条件)
     * 見ましや=見ることが出来たでしょうか、
            いや見ることは出来なかったでしょう。
        → 〜まし=〜だろう(推量)
       → 〜や=(反語の意を表わす)〜か、いや〜のはずがない

ではもう一度!
     ・おく山に心をいれてたづねずは
         ふかきもみじの色を見ましや
だいたい解りましたでしょう? 大体の意味はこうですね。
 <深い色をした紅葉(もみじ)を見たいと思うならば、本気になって山
  の奥深く入って行かなければ、見ることは出来ないでしょう?>
うまいですねえ!この歌には当事者同士しか分からない心のアヤがあったの
ですね。何も知らずにいきなりこう言われたって、分かりませんもの!

<ところで>
  女郎花は古来、和歌では女性にみたてて詠むことが多いそうですが、
  私は(申し訳ないですが)特に美しいとは思いませんが....
  随分前の話ですが、「このユリ、とても香りが強くて大きいですね」
  と言いましたら、「これはカサブランカです」と言われました。
  私は心の中で「ユリやんか!」と思いつつムッとしました。外国の花
  はどうも<けばけばしくて>好きになれません。私は、日本古来の
    竜胆(リンドウ)とか桔梗の方が好きです。「私も古〜い人間でござ
  んしょうかね」。(あはは)  それでは次回まで!

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◆岩切良信の【ほろびゆく日本語を憂ひて】叙情歌・愛唱歌から古典への誘ひ

◆発行:トランスワールド 大阪市中央区南船場1-13-15

◆お問い合わせ・質問・感想等は E-mail:ivakiri@yahoo.co.jp

http://www.geocities.jp/ganchan316/ [ほろびゆく日本語を憂ひて]

http://www.geocities.jp/ivakiri/ [めだかの学校奮戦記]

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