ほろびゆく日本語を憂ひて〜叙情歌・愛唱歌から古典への誘ひ |
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新・ ほろびゆく日本語を憂ひて(02号)
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<大阪には秋はありません>
いきなり何を言うのかとお思いでしょうが、私は大阪はミナミ・道頓堀
の近くに住んでいるせいか、季節感がまったくないのです。殊に「秋」で
す。9月に入り10月の半ばになっても暑い日が続きます。11月の声を
聞くと、突然寒い日があったり、また暑い日が2〜3日続いたりします。
そうこうしている内に、長袖を着たり、またカーディガンを羽織ったりし
ている間に、いつの間にか冬の服装に変わっていきます。御堂筋の銀杏の
葉も、いつの間にかカサコソと木枯らしに舞う日が来るのです。秋の夜長
を楽しむという風情が全くないと思うのです。嫁ハンに言うたら「ほんま
やなあ」と同感してくれました。(あはは)
そこで今回は、みなさまの秋を羨ましく思いつつ、秋の花のつれづれを
書いてみます。先ずは「紫式部日記」から。
⇒ □ 女郎花(をみなえし)
紫式部日記・渡殿の戸口の局
渡殿(わたどの)の戸口の局(つぼね)に見出せば、
* 渡殿の戸口の局に=作者の部屋で
* 見出せば、=外を見ていると、
ほのうち霧りたる朝(あした)の露もまだ落ちぬに、
* ほのうち霧りたる朝に=うっすらと霧がかかっている朝に
* 露もまだ落ちぬに=まだ露も落ちない早朝なのに
殿ありかせたまひて、御随身(みずいじん)召して
* ありかせたまひて=庭を散歩なさって
* 御随身召して=随身をお呼びになって
遣水(やりみず)はらはせたまふ。
* はらふ(払ふ)=きれいにする
橋の南なる女郎花(をみなえし)のいみじうさかりなるを、
* 〜なる=〜に在る
一枝(ひとえだ)折らせたまひて、几張(きちやう)の上(かみ)より
さしのぞかせたまへる御さまの、いと恥づかしげなるに、
* いと恥づかしげなるに、=自分が恥しく感じられる程に
(ご立派でございましたので)
わが朝顔(あさがほ)の思ひ知らるれば、
* わが朝顔の=私の寝起き顔の(見苦しさ)が
* 思ひ知らるれば、=思い知らされるので、
「これ、おそくてはわろからむ」とのたまふするにことつけて、
硯のもとに寄りぬ。
<注> 殿が「(返事が)遅くなってはいけない」と言われたので、
それにかこつけて、急いで硯のある所に走ったのです。
いつまでもそこにいたならば、<朝顔>がばれるでしょう?
そして急いで次の歌を詠みました。
・ 女郎花さかりの色をみるからに
露の分(わ)きける身こそ知らるれ
<解説>
⇒ 露の分きける身
露が降りている女郎花は、それでなくても瑞々しく美しいいもので
す。しかし、露の分きける身(=まるで露が分け 隔てをしているか
のように瑞々しさを失った私(=盛りを過ぎた私)
⇒ (身こそ)知らるれ
(その醜い姿が)思い知らされます
<参考>〜こそ
已然形でつなぐ、いわゆる「強調」の係り結びの法則でしたね。
(.o.)♪ 今<こそ>別れ<め> → 今こそ別れむ
「あな疾(と)」ほほ笑(ゑ)みて
* 「あな疾」=(殿が)「おや、返歌がいやに早いね」
(.o.) ♪ 思えばいと<疾し>この年月
・ 白露(しらつゆ)は分きてもおかじ女郎花
心からにや色の染むらむ
<解説>
⇒ 白露は分きてもおかじ
いやいや、白露は分け隔てなんてするものですか。
⇒ 心からにや色の染むらむ
自分から美しくなろうとするからこそ、女郎花は盛りの色に染まるん
ですよ。(だから、あなたもその気になってください。そうすれば
今でも美しいんだから、もっと美しくなりますよ)
女性って、こう言われると<嘘でも>嬉しいんですってね。
ぐじゃぐじゃ解説しましたので、もう一度,歌だけ味わってください。
・ 女郎花さかりの色をみるからに
露の分きける身こそ知らるれ
・ 白露は分きてもおかじ女郎花
心からにや色の染むらむ
⇒ □ 秋萩
大和物語
百六十 秋萩
おなじ内侍(ないし)に、在中将(ざいちゆうじゃう)すみける時、
中将のもとによみてやる。 * すみける時=通っている時
・秋萩(あきはぎ)を色どる風の吹きぬれば
人のこころもうたがわれけり
<拙訳>
いよいよ萩の色を色づかせる秋風が、吹いてきましたので、人の心も=
あなたの心も、私に、秋(飽き)が来たのでは? とお疑いいたします。
とありければ、
・秋の野を色どる風は吹きぬとも
こころはかれじ草葉(くさば)ならねば
<拙訳>
<その>秋風が吹いて、草葉は色づき、やがて枯れていくでしょうが、
私の心は離れてはいきませんよ。だって私は草葉ではありませんもの。
うまいですねえ! 古の日本人は、自然と季節と人の心を一体として
捉えていたんですよね。こういう心を大切にしていたならば、公害も地球
温暖化も問題視することなかったのに。どこで狂ったんでしょうか。これ
は世界に誇れる日本人の持つ文化なのです。そういえば、私たちは、「虫が
鳴いている」といいますが、外国人にとっては「虫は鳴かない」のですって。
つまりね、鳴く(泣く)のは口を使うからだそうです。虫の「声」は、羽根
をこすって出る「音」だからそうです。無粋ですよね。
ではもう一度,歌だけを。
・秋萩を色どる風の吹きぬれば
人のこころもうたがわれけり
・秋の野を色どる風は吹きぬとも
こころはかれじ草葉ならねば
⇒ □ 紅葉(もみじ)
大和物語
四十七 奥山のもみじ
陽成院(やうぜいゐん)の一条の君、
・おく山に心をいれてたづねずは
ふかきもみじの色を見ましや
この歌は、私がそうであったように、最初は何を言っているのか解らない
でしょう? これは、うわべだけを見て、本当の自分の心を知ろうとしない
男に対して、恨みがましく詠んだものだそうです。また次の<解説>を読ん
で、もう一度歌を味わってみてください。
* 心を入れて=熱心に・本気で
* たずねずは=尋ね求めなかったならば
→ 〜は=(否定語を伴い)〜ならば(仮定条件)
* 見ましや=見ることが出来たでしょうか、
いや見ることは出来なかったでしょう。
→ 〜まし=〜だろう(推量)
→ 〜や=(反語の意を表わす)〜か、いや〜のはずがない
ではもう一度!
・おく山に心をいれてたづねずは
ふかきもみじの色を見ましや
だいたい解りましたでしょう? 大体の意味はこうですね。
<深い色をした紅葉(もみじ)を見たいと思うならば、本気になって山
の奥深く入って行かなければ、見ることは出来ないでしょう?>
うまいですねえ!この歌には当事者同士しか分からない心のアヤがあったの
ですね。何も知らずにいきなりこう言われたって、分かりませんもの!
<ところで>
女郎花は古来、和歌では女性にみたてて詠むことが多いそうですが、
私は(申し訳ないですが)特に美しいとは思いませんが....
随分前の話ですが、「このユリ、とても香りが強くて大きいですね」
と言いましたら、「これはカサブランカです」と言われました。
私は心の中で「ユリやんか!」と思いつつムッとしました。外国の花
はどうも<けばけばしくて>好きになれません。私は、日本古来の
竜胆(リンドウ)とか桔梗の方が好きです。「私も古〜い人間でござ
んしょうかね」。(あはは) それでは次回まで!
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◆岩切良信の【ほろびゆく日本語を憂ひて】叙情歌・愛唱歌から古典への誘ひ
◆発行:トランスワールド 大阪市中央区南船場1-13-15
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