ほろびゆく日本語を憂ひて〜叙情歌・愛唱歌から古典への誘ひ |
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ほろびゆく日本語を憂ひて(64号)
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多摩川の砂にたんぽぽ咲くころは
われにもおもふひとのあれかし <牧水>
いいですねえ。こんなにときめいた時代があったのですね。牧水さんも、
また私にも!(あはは) この歌を詠むといつもある一つの後悔の念が
浮かぶのです。前にも言いましたが、高校時代にキャンプに行きました。
その頃流行っていたNHKの「夢であいましょう」の<今月の歌>であった、
あれ、思い出せない? え〜とジェリー藤夫さんの歌っていた...?
中村八大さんと永六輔さんのコンビの...
♪ 知らない町を歩いてみたい どこか遠くへ 行きたい ♪
「遠くへ行きたい」でしたか? そうですよね! 渡辺文雄さんが旅す
る番組のテーマ曲でもありました。曲も詩も天下一品の作品です。
そこでのキャンプファイアーの時に、知らない高校生たちと一緒に歌った
のです。その一節に「愛する人<と>めぐり逢いたい」がありました。
私は「愛する人<に>めぐり逢いたい」だと言い張ったのです。まあどっ
ちでもいいや、とその場はおさまったのですが、それから妙に気になって
いました。<に>と<と>では大きな違いがあると友人が言ったのです。
「愛する人<と>めぐり逢いたい」というのは、まだ特定の人がいなくて、
知らない町を歩いている途中で、素敵な人とめぐり逢うかもしれないという
期待がある、と友人が言うのです。だったら<に>じゃないか、と私。
で、あの時の友人のほうが正しい、間違いなく<と>だと、最近確信するに
至って、未だに<調べて>いません。悔しいから? そうだと思います。
でもあの時は、まごうことなく<青春>そのものでした。あいつ今どうして
るだろう?
で、牧水さんの「われにもおもふひとのあれかし」もきっと、友人が言った
ように、「愛する人<と>めぐり逢いたい」との思いではないでしょうか。
山を見よ山に日は照る
海を見よ海に日は照る
いざ唇を君
これも牧水さんの歌です。これ<密かに>好きです。尾鈴の山と日向灘を大
らかに謳い、「いざ唇を君」なんて、九州男児の端くれの私としては、こん
な気障なこと言えないです。(あはは)やはり詩人の感性でしょうか。
ふるさとに帰り来たりてまづ聞くは
かの城山の時告ぐる鐘
なつかしき城山の鐘鳴りいでぬ
をさなかりし日聞きしごとくに
ふるさとは、帰るたびに変わっていきます。いえ、ふるさとだけでなく、都
会もその姿を変えていっています。いつの間に更地になったのだろう?
あれいつの間にこんなすごいマンションが建ったんだろう?とか。
でも、ふるさとが変っていくのがいちばん辛いものです。あの懐かしい木造
2階建ての校舎は、りっぱな鉄筋の学び舎になっています。でもその感慨は
都会に出て行った(田舎を捨てた)人間の奢りです。自分も変っていったクセ
に田舎だけはそのままであれかし、なんて傲慢なのです。
でも、そうは言ってもやはり、ふるさとだけは自分の思い出のままのふるさ
であって欲しいのです。せめて「鐘の音」だけでも! 牧水さん、よ〜くわか
ります! 私とて小学校の校庭の、あの4本の栴檀の木は同じでしたよ!
けふもまた心の鉦(かね)をうち鳴らし
うち鳴らしつつあくがれて行く
* 鉦=どら・軍隊で用いる楽器の一種
* あくがる=(本来の場所から)離れてさ迷うこと
やはり若山牧水は典型的なボヘミアン・さすらい人だったようです。
浮世の垢で埋まった私なんぞには、羨ましくもあり、真似のできない一生だっ
たようです。次回は田山花袋の「ふとん」です。今回書こうと思っていました
が、長くなりそうなので、ここで筆をおきます。ふるさとへの想いがございま
したらメールください。
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◆岩切良信の【ほろびゆく日本語を憂ひて】叙情歌・愛唱歌から古典への誘ひ
◆発行:トランスワールド 大阪市中央区南船場1-13-15
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