トップ > ニュース&情報 > 社会・社会学 > 花柳幻舟さんとあれこれ考えてみる

小学校中退で大学卒業の創作舞踊家・花柳幻舟と仲間たちが、日常の出来事から内外の政治、経済、教育等々の小さな疑問や大きな矛盾について、自由でユニークな観点であれこれ考え語るメッセージマガジン。

  • 最新号:2008-10-10
  • 発行周期:月2回(10日、25日)
  • 読んでる人:105人
  • 創刊日:2004-02-26
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花柳幻舟さんとあれこれ考えてみる(2005.7.25号)

発行日: 2005/7/25

         ―少数派の意地と矜持(きょうじ)― 「私たちにも昼食をとる権利があるんだッ」  冷静沈着というよりも、非情な面持ちの印象が深かった黒い法服の判事が、 一段高い場所からカナキリ声を発した。判事といっても三人居並ぶ裁判席の中 央、つまり裁判長である。  その裁判長のタガがはずれたような痛切な、初めて見る人間くさい貌(かお) と悲痛なおたけびなのだった‥‥。  過ぐること7、8年前。理不尽な事件の当事者にされた私は、勝手知らぬ「 本人訴訟」に踏みきった。むろん、法律にそこそこ通じていた知人のあたたか い支援をえてのことではあったが、私を本人訴訟という未知の世界に踏みこま せたのは大義もへったくれもない不当な圧力への怒りだった。 「本人訴訟(そしょう)」とは、自分でできる裁判のことだ。なにも高いギャ ラを払って弁護士をやとう必要はなく、図書館や本屋に行けば、『自分ででき る本人訴訟』などの関係書はたくさん出ている。最終的には本人の覚悟しだい だ。  簡単にいうと案件(あんけん)は、とくに初夏、私が借りていた駐車場の囲 いの木枝がのびて視界が不良となる。その駐車場の前面が子供たちの朝夕の通 学路なので非常に危険である。だから定期的に、駐車場の車が出たり入ったり する出入口の枝を切ってほしいと私が要望したことに対し、 「そんなにゴチャゴチャいうなら出ていってくれ」  と、大家が唐突に強行な態度に出てきたことだった。当然、拒否すると、い きなり4人の弁護士連名の銀座にある某弁護士事務所から内容証明が送られて きた。  これも無視すると、今度は家庭裁判所から呼び出しがかかり調停となり、3 0歳くらいの若い相手方の代理人弁護士が登場した。この青年弁護士の前で、 彼の父親くらいの年令の初老の「調停員」2人がペコペコするという一種異様 な、同時に私にとっては新鮮な舞台の第1ラウンドが始まった。  私があまり堂々としている(4割くらいは何も知らない無知ゆえの強さだっ たが)ためか、青年弁護士(4人連名の一番下に書かれていた)は猫ナデ声で 私を丸めこもうとしたがむろん、きっぱり拒否すると、代理人は、 「ふちょおおーッ(不調―ッ)」  冒頭の裁判長の若き日はかくやと思わせる黄色い声を、憤然とした赤ら顔で 叫んでいたのである。いまだから白状するが、このとき私は「不調ッ」の意味 がわからなかった。  いや、不成立なんだなというくらいは直感的に分かったが、誰にも言ってほ しくないのは、「不調」というギョーカイ用語との出会いはこのときが初めて。 家に帰って国語辞典や法律用語事典をめくってからようやく知ったわけ。  そんなレベルの知識しかない私が第2ラウンドの地裁(地方裁判所)の舞台 へと突入してゆくのは、支援者の友情や励まし以外に、怒りと意地だけ。いさ さか大仰にいうなら、 「こんなことでくじけてオレの人生なんてあるもんか。ギンザがどーした。ビ ンボー人は強い。これは試練だ。どうせなら、うんと見聞を広めるべく、新し い世界を大いに楽しんでみろ、という天の声に違いない」  というおもいからだった。  そして迎えた第2ラウンド。登場した、いかにも権力者然とした裁判官、し ょっぱなから私と例の青年弁護士を、法廷から別室に呼んで和解を取りつけよ うとする。 「なんで私が出て行く必要があるのか。ない! 子供たちの命の安全と、私た ち駐車場の賃借人の事故回避のために要望したこと。大義は私の側にある」  てな主張を述べると、この善良の民である私に対してはすこぶるぞんざいに して横柄(おうへい)な態度を取り、青年弁護士にはたまげたことに何度も「 センセイ、センセイ」と差別的な色分けをしていた中年のバカタレ裁判官、 「こんな事件は税金のムダ使いだ!!」  私をにらみつけるような高圧的な面構(つらがま)えで、かくなる暴言を吐 いてくれたのである。  主張は主張として貫くが、相手の土俵で闘う方針でいた私も、段々と、コイ ツらにはいささか別種の感覚で接しなければ人生をねじ曲げられてしまうとい う危機感を抱くに到った。  直後、支援者と相談した。人生の名誉をかけてこの裁判に臨(のぞ)んでい る当事者(私のこと)のプライドも、法の前の平等や権利をも無視し愚弄(ぐ ろう)するがごときこの暴言裁判官に対し、私は、理由を明示して<裁判官忌 避(きひ)>を申し立てたのである。  この忌避申し立てにより、本裁判(本訴)は約3ヵ月間ほど審理(しんり) がストップした。  これを第3ラウンドと位置づけると、この裁判官忌避の申し立て(要するに、 この裁判官は当民事事件の担当者としてふさわしくないから別の人に代えてく れ、また彼は裁判官として資質そのものが問題ではないのか、といった内容) には、実はもう一つの重大な意味があったと後で知った。  すなわち、一説には各裁判官は1人で年間約400件もの事件を抱えている そうである。  その事件解決の処理能力のいかんが、将来の昇進に大きく響(ひび)くんだ そうな。となると、彼らにとっては“この程度”(ところが私には一生モノ) の事件の処理にモタモタしていたら、エリートコースからはずされかねない。 こうしたことは、人事を掌握(しょうあく)する最高裁事務局の人事異動や昇 進の評価の対象にも関係するらしい。  私の忌避申し立てが影響したのかどうかは知らないが、それがあらぬか翌年、 この暴言裁判官が中央から某地方の裁判所に転勤になっていることを新聞で知 った。  まあ、少なくとも私の反抗が「記録」に残ることだけは確かである。この忌 避の審理はすべて書面審査、予想されたこととはいえ上訴しても却下・却下の オンパレード。私も趣味に近く意地になり、こちらは本訴をはずれて最高裁ま で闘った。そのたびごとにかかる印紙代と切手代は数千円程度なので、まあ許 容範囲。いろいろ調べたり新知識を仕入れる手間ヒマはいささか要するが、こ んな連中のためにどれだけの善良なしもじもの民草(たみくさ)が泣かさせて いるのかと考えたとき、もはやゼニカネじゃなかった。ここで、一矢(いっし) むくいておきたい気持ちが強く私をとらえていたのである。  約3ヵ月後に再開された本訴の法廷に現れたあの暴言裁判官の私に対する物 腰や顔つきは、明らかに変わっていた。少しばかりしおらしくなりソフト化し ていたが、和解を拒否して判決を求めたところ、私への仕返しじみて(と私に は感じられた)フザケた判決文を出してきたのである。  いうまでもなく、控訴。これは私の側からで、第4ラウンドに突入。こちら も段々と裁判と裁判所、またそこに棲(す)むギョーカイ人らの雰囲気になれ てきた。いろいろ面白くなり、調査活動を深めるうち、なんのことはない、大 家(駐車場経営者)が農地法に違反して、違法な駐車場経営をしていた事実を 突きとめたのである。  この決定的な事実を高裁の法廷で私が相手側に突きつけると、あの青年弁護 士の顔からザザーッと血の気が引いて気の毒なまで青ざめた顔に変わり、明ら かに唇をワナワナ震わせて一言も反論できなくなった。  つまりテキは、この違法駐車場経営が発覚するのを恐れて、その事実を本当 は知りながら代理人弁護士も、法の正義よりもショーバイで弁護活動を引き受 けていたのであるから驚きである。  ここで青年弁護士は退場し、次回公判から2番手バッターの中堅弁護士が登 場、私も少しは率直な意見が述べられるまでに成長した。それまでのようにた だ裁判官にいわれるままの時間内での弁論では終えず、いささか時間がオーバ ーしても言いたいことは言っておくという断固たる姿勢に転じていた。それは 法で保障された当然の弁論の権利でもあった。 「あとで、あとでまた時間を取りますから」  昼12時をちょっと回ったとき、冒頭の裁判官が何度もそう腕時計を見やり ながら上ずり声で私に訴えるも、 「いや、私は弁論を尽(つ)くしていない。もう少し、今回は率直に言わせて もらいます!」  そうきっぱりキ然と述べ、用意してきた原稿を記録係を意識しながらゆっく り最後まで読みきろうとしたら、突然、予想もしなかった冒頭の裁判長の悲鳴 にも似た奇声がシャープに降り注いできたのである。びっくりしたなあ、もう ‥‥。  数年間にわたった裁判は、私の勝利に終えた。しかし判決(高裁)内容は実 にオソマツで、被告(大家)が私に支払うべき損害賠償金は1万円! 裁判と その世界がいかにインチキの多いギョーカイであるかってことを痛感させられ た気がする数年間だった。  ただし、大家が弁護料として使った費用は200万円は下るまい。駐車場料 金は、1人1台月額3千円。約20台埋まっていたので月収で6万円、年収に したら72万円。これも失った。  裁判と裁判所の世界には、バカバカしい魔物が今日も朝からいきいき棲息( せいそく)していることは学んだ。それにしても、1個の人間としての意地と 抵抗精神さえあれば、まだまだ泣き寝入りするには早すぎることは多いと思う。  ところで例の駐車場は、この裁判終えて私がみずから退場後まもなく行政に より強制的に閉鎖させられた。いまはペンペン草がのんびりと揺れている。                   【『自操連』副総裁・水平線世之介】 <あとがき> □健学社発行の月刊誌、『心とからだの健康』で連載中の幻舟さんのコラムが 好評です。 「仕事が忙しく、最近は子どもとの会話が少なくなっていたのですが、会話の 時間の多少よりも、いかに子どもと正面から向き合う姿勢が大切か、改めて考 えさせられました」「頻繁(ひんぱん)に起きる学校内での悲しい“事件”を 見聞きするにつけ、幻舟さんが先生だったら‥‥と思わずにはいられません。 子どもたちの心の痛みを自分の痛みとして関わってくれる先生は今では稀(ま れ)。幻舟さんのおっしゃる通り、誰をみて話しているのか分からない先生の 多いことが本当に残念でなりません」などの感想が、幻舟さんのもとに数多く 寄せられているそうです。  このコラムは、『子どもの目線から見た大人たち』というメインタイトルに もある通り、大人たちがどこかへ置き忘れてきてしまった子どものころの感受 性を、もう一度思い出すための幻舟さんからのヒントでもあると思います。そ の意味でも、ぜひ多くの方々に読んでいただきたいと願っています。  当メルマガあてにもお問合せがありますが、お近くの書店の書棚に置いてな い場合でも、その書店でご注文していただければお取り寄せができます。また 書店でお取り寄せができない場合には、直接、健学社(03−3222−0557)まで 電話でご注文していただくか、同社のホームページ http://www.kengaku.com/ からお申し込みください。 □講演会のお知らせ  福岡県行橋市の主催による「人権・同和問題啓発強化月間」記念行事の一環 として、幻舟さんの講演会が開かれます。 日 時:2005年7月29日(金)     開場は午後1時。各種記念行事のあと     講演会は昼2時30分〜4時になります。 会 場:コスメイトゆくはし文化ホール     福岡県行橋市1−9−3     電話0930−25−2300 問合せ:行橋市総務部人権男女共同参画課     電話0930−25−1111(代表)  なお、当日は会場受付にて、幻舟さんの著書  「小学校中退、大学卒業」(明石書店)  「逃げたらあかん」(KKロングセラーズ)  「冬の花火」(パンドラ)  なども販売しています。  ぜひご来場ください。 □このメールマガジンについてのご感想などは、  genshu-h@mail.goo.ne.jpまでどうぞ。                           【へんしゅう・昇】

 
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