トップ > ニュース&情報 > 社会・社会学 > 花柳幻舟さんとあれこれ考えてみる

小学校中退で大学卒業の創作舞踊家・花柳幻舟と仲間たちが、日常の出来事から内外の政治、経済、教育等々の小さな疑問や大きな矛盾について、自由でユニークな観点であれこれ考え語るメッセージマガジン。

  • 最新号:2008-10-10
  • 発行周期:月2回(10日、25日)
  • 読んでる人:105人
  • 創刊日:2004-02-26
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  • メルマガID:111008
  • バックナンバー:全て公開
  • 発行者サイト:あり
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花柳幻舟さんとあれこれ考えてみる(2005.6.10号)

発行日: 2005/6/10

            < パ ト カ ー >  去年の春、近くに住むイギリス人の友人が休暇でキューバを訪れた。そこで彼 女は一人の若いキューバ人男性に出会う。二人はたちまち恋に落ち、彼女は時間 とお金を工面(くめん)しては彼に会いにキューバへ飛んでいった。そして冬、 二人は結婚した。  彼女の仕事の関係もあって、二人は日本で暮らすことに決めた。キューバ人で ある彼が自国を出て外国に行くのは容易なことではない。彼女は仕事のかたわら、 日本・イギリス・キューバの関係省庁を飛び回り、膨大な書類を書き、少なから ぬお金も使って、やっと今年の4月、彼を日本に迎えることができた。  初めて自国を出た彼にとって、日本は何から何まで勝手が違う。愛する人との 暮らしと初めてみる異国への希望と期待に溢(あふ)れて来日した彼だが、予想 以上にカルチャー・ショックは大きいようだ。最初の1週間ほどは、ほとんど家 の中に引きこもり状態だったという。  来日3週間目ころのある日、事件が起きた。まだ仕事が決まらない彼は、昼間 は家の周りをひとりで散歩して自分の住んでいる場所に慣れようとしていた。そ の日も近くを歩いて帰ってきたら、数人の子どもたちが遊んでいた。彼にとって は外国人である日本人の子どもたちが可愛らしく、また珍しかったので、彼はそ の姿を携帯電話で画像に撮った。  それを聞いた瞬間、私は「あっ、そりゃちょっとマズイ」と思った。友人も同 じように思ったそうだ。子どもたちが被害に遭う事件が頻発(ひんぱつ)してい る昨今、親たちは子どもの周囲に注意深く目を光らせ、非常に敏感になっている。 そして、残念ながら、そうしなければ子どもの安全が守れないのが現実だ。  そのときも、彼が写真を撮ったのを見るやいなや、近くにいた母親たちはすぐ に子どもを引き寄せた。さらに、なかの一人は自分の携帯で110番通報した。 あっという間に2台のパトカーがやってきて、事態が理解できず茫然(ぼうぜん) としていた彼は所轄の警察署に連行されてしまった。  ここまで事が大きくなってしまったのには理由がある。この事件の数日前、近 くの小学校が校長名で、全校生徒の保護者宛てに「こういう人相の不審な外国人 に注意」という文書を送っていたのである。そこに書かれてあったのは、まさし く彼の人相と、彼がよく着ている服装であった。  連行先の警察で誤解を解き彼を連れ帰った友人は、この文書のことを知って驚 き、激怒した。すぐにこの小学校に連絡して事情を尋ねたところ、彼が日中近く を歩いたり建物(友人と彼が住んでいる団地)に出入りしたりしているのを見か けた一人の保護者が「通報」してきたから文書を出したのだという。事実関係に 関してまったく何の調査もせずにである。  後日、友人は、この小学校に子どもが通っている日本人の知り合いとともに校 長と面談した。校長は誤解であったことを詫び、各担任が子どもたちに誤解であ ったことを伝える、訂正の文書を保護者宛てに出す、今後は友人と彼を学校の行 事等に招待して子どもたちとの交流を図る場を設ける、などを約束して、事件は 一応の決着をみた。  しかし、子どもたちの間ではすでに、「家に遊びに来るように誘われた」など の噂が広がっている。彼はスペイン語しか話せないのにである。 「人権」の意味と、それを守ることの大切さを教えるはずの学校で、教師がなぜ かくも不用意に、一瞬にして一人の名誉と人権を奪うようなことを行なうのか。 その文書を作成し、封筒に詰め、宛名を書いて発送するまでに、異議を唱える教 師がなぜ、ただの一人もいなかったのか。また、彼が日本人であっても彼らは同 じことをしただろうか。あるいは、金髪碧眼(きんぱつへきがん)の白人であっ たら?   もしこの文書が出ていなければ、先の母親も、写真を撮った彼に抗議をするこ とはあっても、110番通報までもはしなかったかもしれない。言葉の通じない 異国で、故国でも経験のないパトカーに押し込まれて警察に連行された彼のショ ックは大きい。                             【嶋田 ゆかり】 <あとがき> □この秋発売予定の新著の執筆に、ただいま大奮闘中の幻舟さんですが、多くの 資料を調べる中で、色々と考えさせられることがあるそうです。 「本当に凄惨でむごい、人間として許せないと思ような数々の犯罪について調べ たけれど、それでも私は死刑制度に反対。一番の理由は、もし誤判があったとき 取り返しがつかないから。  実際に死刑を執行する刑務官は、死刑囚と毎日顔を合わせ、話をしているうち に、次第に“情がわく”とはいわないまでも、ある種の感情が生まれてくるもの。 だから、いくら職務とはいえ、実際に自分の手で死刑の執行を行いたくない。そ のために死刑台の床が落ちるスイッチボタンは誰が押したのかわからないように 何人かが一斉に押す仕組みになっている。それでもその場に立ち会った刑務官た ちは眠れない夜が何日も続くと聞く。  刑務官のなんともやりきれない思いがある一方で、死刑判決を下した裁判官や 死刑を求刑した検察官は、次の裁判が待っているからと、自分が関わった死刑囚 のその後のことなどいちいちかまっていられないらしい。  私は、もしどうしても死刑を存続するのなら、死刑の判決を下した裁判官、死 刑を求刑した検察官、死刑判決を受けた被告の弁護人、死刑執行のサインをした 法務大臣の4人は死刑執行のその場に必ず立ち会わなければならないようにする べきだと思う。  そして、“加害者を極刑にしてほしい”という憎しみはどうしても癒えないで しょう。被害者の家族の方は死刑執行を見届けることによって少しでも心が癒さ れると考えられるのであれば、被害者の家族についても、望む人には立ち会うこ とができるようにしたらいい。  けれど私は、死刑によって被害者の家族の心が本当に癒えるとは思えない。加 害者を死刑にしたところで、愛する人はもう戻ってこないのだから。  死刑制度は戦争と並んで国家が犯す大罪ではないだろうか。死刑制度は今すぐ に廃止し終身刑を導入して、懲役刑で刑務所の中で社会のために役立つ作業をし、 一生をかけて自らの罪を償うように、生涯自由の身にしない法にするべきだと私 は思う。とにかく死刑制度は絶対に反対」  数々の犯罪に関する膨大な量の資料を前にして、幻舟さんはこう語ってくれま した。  命の尊厳は、自らも大切にし、同時に人からも大切にされなければならないも のです。  そのためには身近な法律についてもっと知識を持とうというのが、幻舟さんの 新著のコンセプトでもあるそうです。  『小学校中退、大学卒業』(明石書店)や『逃げたらあかん!』(KKロングセ ラーズ)とはまた違った斬り口による幻舟さんのメッセージ本に期待したいと思 います。 □このメールマガジンについてのご感想などは  genshu-h@mail.goo.ne.jpまでお寄せください。                            【へんしゅう・昇】

 
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