小学校中退で大学卒業の創作舞踊家・花柳幻舟と仲間たちが、日常の出来事から内外の政治、経済、教育等々の小さな疑問や大きな矛盾について、自由でユニークな観点であれこれ考え語るメッセージマガジン。
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花柳幻舟さんとあれこれ考えてみる(2005.5.10号)
発行日: 2005/5/10幻舟の今日のひとりごと
<コメディアンのポール・牧さんが逝ってしまった>
ここ15,6年、ポールさんとはお会いしていなかった。ポールさんとは思想
的には相反するものはあったが、何か事ある時、援護射撃をしあったものだっ
た。
ポールさんと出会ったのは、もうかれこれ30年以上前になるだろうか。私が
大阪から慣れない東京に来て、しかもメディアによってスキャンダラスに書き
立てられてのスタートのために、本職の舞踊家としての仕事はまったくなかっ
た。たまにくる踊りの仕事といえば、キャバレーのショーや、ディナーショー
等で踊るというものしかなかった。
そんな頃、今はもうなくなったであろう、土佐の高知にあったマンモスキャ
バレーのお仕事でご一緒したのが、ポールさんとの初めての出会いだった。
当時、ポールさんは『ラッキーセブン』という名前でコントを、関武志(せ
き たけし)さんという相方さんと組んで仕事をしておられた。
私は、自分の出番を待ちながら、舞台の袖でイスにかけ、『ラッキーセブン』
の芸を見せていただいた。
話芸と、舞台せましと走り回り、大アクションを軽妙に取り入れた見事なコ
ントだった。
作品の台本は、ポールさんが書いていたという。とにかく体当たりの『ラッ
キーセブン』の芸は圧巻で楽しかった。今や、あれほどの芸人さんは皆無に等
しい。
私の代表作といわれる創作舞踊『残・情死考』初演の時、新宿のアートシア
ターに駆けつけてくれ、終演後、楽屋に大声をあげて入ってきたポールさん、
「幻舟ちゃん、よかった、すごいすごいよ、すごい作品だよ!」
と、ヘタな能書きはまったくなしで、心から喜んでくれた。その喜びの声は、
お互いに当時、芸人としてのプライドと、将来に夢と希望をもつ者同士として
の歓喜の声だった。
ポールさんは、よそごとでなく、自分のこととして『残・情死考』の作品の
成功を祝ってくれた。今も、あのときのポールさんの声は私の耳の奥底に残っ
ている。
来る仕事、来る仕事、スキャンダラスなものばかりの当時の私は、ある時は
やけっぱちになったり、気が滅入ってやる気を失い、パワーもすり切れ状態だ
った。
そんな頃、初めて創った『残・情死考』それが、私の代表作品ともいわれる
ようになっていった。
しかし、作品に自信はあっても、当時の私は東京での自創の公演は初めて、
心細かった。若く、キャリアの少ない私は、特に若い芽や、新しい才能をそだ
てることに非協力的なメディア、文化人、評論家も怖かった。
そんな私の心理を読むかのように、ポールさんは、楽屋に入るなり、誰より
も大きな声で、私の手をしっかり握り、
「すごいよ、すごい作品だよ、スバラシー」
を連発してくれた。
ポールさんの舞台を観に行って、これとはまったく逆のことを、私も度々や
った。
自死するということは、よくよくのことである。
しかし、本人が逝ってしまった後、あれこれ人は理由付けをしたがる。
私も何度か自死を決意した人間としていえるのは、自死の原因はひとつやふ
たつではないということだ。
降り積もる雪のように、絶望や怒りや孤独を、それぞれ抱え込んで問題が重
なりあい、蓄積し、一番最後に引き金を引く瞬間は、小さな出来事なのである。
まさに、ガスが充満しきった小さな部屋のドアを開けることによって、わずか
な静電気が発生する、そのことによって大爆発するような。
絶望や怒り、孤独、悲しみ、生きるパワーを摩滅した、大きな大きな原因が
溜まりに溜まって、“もうええわ、疲れた‥‥”と、自死の大決意を、軽くし
てしまう。
そして、自死を食い止めるのも、わずかなことであったりもする。例えば、
“もうええわ、疲れた‥‥”と、重い腰をあげ、飛び降り自殺を決意し、マン
ションのベランダに進みかけたその瞬間、電話が鳴り、フッと何気なく取った
受話器。電話の向こうから大切な人の優しい声が聴こえる。話しているうちに
なぜか、もう1日生きてみようか‥‥などと思い至ったりして。
また、死ぬ前に冷蔵庫に大切に大切に残してあったクジラのベーコンに気づ
き、食べてから‥‥ナンテ、食べている間に気持ちがおだやかになってきたり、
心が温かになってきたり(私の場合、そんなこともありました)。
自死の最後の最後の決意は、わずかな出来事で踏み切ってしまうし、また、
それを思いとどまらせるきっかけもささやかな事柄だったりするのである。
とにかく、死んだもん貧乏とはよくいったもので、死人に口なし、死んでし
まったら何も反論できない。
友人Aや近人Bと称す人がごまんと出てきて、あれこれ論じてくれるが、ど
れも間違っているし、どれも合っているかもしれない。しかし、人間が自分自
身のすべての歴史を自分の手で殺すには複合的な理由があるはずだ。
だが、残された友人や知人と称す人たちは、適当に断片的な、現象的な話を、
“死の理由”として断言する。その話が一人歩きして、死の原因はそれなりに
脚色され、出来上がってしまうのだ。
ポールさんのこともそうだった。
ある有名人(?)が、「ああ、やっぱりネ、お金に困ってたのよ。私にも、
“仕事ない?”とか、“付人でもやりますよ”なんていってネ、こりゃあ、お
金に相当困ってるなアーと思ってたのよ」とコメントしていた。
よしんば、この話が本当であったとしても、無名の時代から名をなすまで、
修羅場を数多くくぐってきた芸人中の芸人さん、お金ごときに困ったくらいで
自殺するわけがない。彼はそんなセコイ芸人ではないと、私はポールさんの名
誉のために付け足しておく。
友人ヅラして「ああ、やっぱりネ‥‥、お金に相当困っていた‥‥」などと
いえる神経に、私は呆れる。もし、そのことに気づいていたのなら、なぜポー
ルさんのプライドを傷つけないように、ひっそりこっそり援助してあげなかっ
たのか。
非業の最期をとげたポールさんに対する自責の念もなく、よそごとのように
ケロリとコメントするこれらの心ない人々が、ポールさんの心を疲れさせ、孤
独の淵に追い込み、「もうええ、疲れた‥‥」と、最後の引き金を引かせてし
まったのだったら、ポールさんが哀しすぎる。
“前からわかってたんですよ。近所のみんなで話してたんですよ。ひどく子ど
もさんの泣き声が聞こえたりしてネ。きつく叱られていましたよ‥‥”なんて、
虐待で残酷に親に殺された事件発生の後、近所となりの人たちが、テレビのニ
ュース等でコメントしている場面をよく見かける。まさに見て見ぬふり。知っ
ていたら助けてやれ!
私はこういうコメントを聴くと、ひとり大声で怒鳴ってしまう。
これは虐待犯の共犯者だ!
今日では法が改正され、それを知ったとき、速(すみ)やかに、市町村、都
道府県の設置する、福祉事務所、児童相談所または、児童委員を介して通告し
なければならない。すなわち『通告の義務』が課せられたのだ。
人間の世の中には色んな悪がある。
その悪の中でも、もっとも許しがたいのは、無意識・無自覚・無関心なのだ。
これがすべての悪を作り、世の中の悲劇を生んでいると、私は心から痛感する。
<あとがき>
□4月25日朝に起きたJR福知山線の脱線事故は、真因はまだ解明されてい
ないが、これまでの報道によると、まさに起こるべくして起きた事故のように
思われる。
大惨事が起きたこの区間は、停車する駅が新たにひとつ増えたにもかかわら
ず、次の駅の到着時刻は増える前と同じ時刻に設定されていたという。机上の
計算だけで作られたような、通常では考えられない無謀なダイヤを守るために
は、現場の人間はどこかで無理をしなければならない。いきおい極限までのス
ピードアップが運転手に求められる。規定速度をオーバーしてスピードを出す
ことは日常茶飯事だったとの他の多くの運転手の証言がこれを裏付けている。
新型の自動列車停止装置が設置されていればこの事故は防げたという声を聞
くが、JR西日本は、1本でも多くの電車を走らせるためにはこのような安全
装置があったのでは邪魔だと考えて、あえて設置を先送りしていたのではない
だろうか。
「JRになってあちこちで事故が多くなりました。なんであんなに単純な事故
が起きるのかと、みなさん不思議がります。あれは人員削減をするがゆえに人
手(ひとで)がない。もういっぺん線路を歩いて点検するという人が少なくな
ってしまったからです」(花柳幻舟著『逃げたらあかん』KKロングセラーズ)
かけがえのない命を預かりながら、利用者の安全よりも企業の利益が優先さ
れるJR西日本の体質は厳しく追及されなければならない。
□その一方で、JR西日本社員の小さな私的な行為であろうがなんであろうが、
「遺族の感情を逆なでする行為」と煽(あお)り立てて、まるで鬼のクビでも
とったかのように、逐一報道するメディアの姿勢には疑問を感じる。
視聴率が取れる、雑誌や新聞が売れる、そんな“絵”を撮るためには、救急
隊員の活動の邪魔になろうが関係ないというのでは、JR西日本の“利益優先
主義”を批判することはできないのではないか。
幻舟さんが「メディアは、私たち大衆のもの、真実追及と正義の実現のため
にあるべきものでなければならないのである。だが、現在のマスメディアの主
流は、商業主義の傘下におさめられてしまった感がある」(『小学校中退、大
学卒業』明石書店刊)、と明言したように、「市場原理」によって情報の優先
順位が決められてしまうのが今日のマスメディアだ。
枝葉の部分の情報だけが洪水のように大量に流され続けることで、「もう、
この話はうんざりだ」と無関心になり、真実の追求がおろそかになってはなら
ない。私たちが真に必要とする情報は、私たち自身の目で探し出し、追求して
いかなければならないと、JR福知山線の脱線事故に対する今回の報道をみて、
改めてこう感じた。
□健学社発行の月刊誌『心とからだの健康』で連載されている幻舟さんのコラ
ムが好評です。
6月号(5月15日発売予定)では、子どもたちからみた“親子の愛情”に触
れながら、子どもと向き合う親の姿勢について語られています。
この書籍についてのお問合せ等は、健学社 http://www.kengaku.com/
までお願いします。
このメールマガジンについてのご感想などは、genshu-h@mail.goo.ne.jp
までお寄せください。
【へんしゅう・昇】
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