伊豆一周歩き旅 No.004
発行日時: 2003/12/30【4日目・2003年12月28日】
ホテルをチェックアウトする際、みかんが10個ぐらい入っているコンビニ袋
を私に差し出し、「重たいかもしれないけどこれ持っていって」とお上さん。
昨晩は洗濯もしてくれた。ホテルとは思えない心温まるもてなしを受けて、私
のお気に入りホテルになった。機会があればまた利用したい。
「国道は危ないから気をつけてね」
とご主人。
「旧道はすごく山のほうなんですよね」
と聞くと、お上さんが
「いのししが出るから危ないわ」
やはり国道を行くしかないようだ。それにしても本当にいのししなどでるのだ
ろうか。ご夫婦に見送られ9時40分に宿を出る。
下田温泉までは国道で25キロ。もう少し歩けそうだが宿探しが心配なのでこ
こを目標にする。余裕があれば寄り道をして行こう。
上ったり下ったりトンネルを通ったりすること50分、14個目の温泉、稲取温
泉の入口に来た。湯元ホテル空室ありの案内看板に従い国道を左折する。昨日
の今日だけに空室ありのホテルとはどんなものか見ておきたかった。曲がって
数十メートルでそのホテル。もう閉鎖されていて荒廃していた。
国道に戻るより一旦海に出て漁港まで平坦な道を行ったほうがいいと思い坂
を下った。海に出て数分で稲取漁港。日曜の漁港らしくとても静かだった。港
の周りをぐるっと歩くと道祖神が奉られている。かなり歴史ある町かもしれな
い。
道祖神を写真に撮っていると、近くにいた老人が「あっちにも観音さんがあ
るよ」と指差した。それは坂を下りきったところからも見え、そのときは誰か
の胸像かなと思い、気になっていたものだ。行ってみると伊豆88観音霊場の
33番札所であるお寺だった。観音さんと言っていたものは大仏だった。
お寺を出て、さあどこへ行こうか。稲取駅周辺のウォーキングコースも入手
していたが、漁港がコースに入っていないためこの辺りは大雑把な地図になっ
ている。観光ポイントらしきものはどんつく神社ぐらいで、あとはヤオハンと
幼稚園が載っている程度だ。稲取は小さな岬になっており、どんつく神社はそ
の先端にある。名前からしてもそうだが、地図上では行き止まりになっている。
そこから国道に戻るためにはかなり時間を費やしそうなので神社には行かずに、
稲取の中心街を見て国道に戻ることにした。
とりあえず大きなホテルが先のほうに見えるのでそこを目指した。神社の脇
を抜け、民家の路地を通り、そのホテルの裏手に出た。正面に回るともう門松
が飾られ、高級そうなホテルだった。ホテルの先は海。岸壁の階段を登ると神
社があるようだ。30歳前後のアベックが車を止めて階段を登って行った。その
年代のアベックがそれほど有名ではない神社にお参りに行くなんて珍しい。
階段以外の道は海沿いに港へ戻るか、階段を迂回するように急斜面を登って
いく車道しかない。いつの間にか岬の先端に来てしまったようで、失敗したと
思った。体力を惜しむのなら戻るべきだが、そういう気にはなれずどこに通じ
るかも分からない坂を登り始めた。
坂の途中、廃業したホテルが1軒。その先には高級そうなホテルが1軒、こち
らは営業している。道はさらに登り少し不安になるが、原付を道の脇に止めた
おばちゃんに、国道との合流付近にあるヤオハンに行けるか尋ねた。おばちゃ
んはにこっと笑って「行けますよ」と答えてくれた。そのすぐ先で道が細くな
ったので、尋ねていなかったらもっと不安になっていただろう。
しかし、着いた先は灯台だった。岬の先端の一番高いところに来てしまった
ようだ。それでもこの先がヤオハンに通じると思い込んでいるので、灯台を抜
けてさらに進んだ。すると車道は灯台の周りを回って元来たところに戻りそう
だ。どうしようと考えていると、アベックが向こうから遊歩道らしき坂を登っ
てやって来た。さっきのアベックだ。車道も歩道も着いた時間は同じかなと思
ったが、アベックは妙な会話をしながらそばにあった車に乗り込んだ。さっき
の神社をお参りした後、車で来たようだ。妙な会話とは、男性が
「写真を撮ったらいいじゃん」
と言うと、女性は恥ずかしそうに
「やだよ〜」
と言った。それがどういうことかはすぐに分かった。
ここがどんつく神社であり、どんつく祭りの説明板があった。説明板にはこ
う書かれている。「二千年前よりこの地に伝わる夫婦和合、子孫繁栄、無病息
災を神に祈願する祭り。神社に奉納された性器を模した御神体が陰の神社に和
合するまでの催しが行われます。全国でも例をみない奇祭です。」二千年前と
は驚いた。稲取はそんなに歴史がある町だとは知らなかった。
祠の中を覗くと、御輿に載った赤茶色の大きな御神体があった。祠の壁には
どんつく祭りの写真が飾られている。芸者姿の女性が御神体の先端を脇に抱え
顔を付けている写真もあった。さっきのアベックの会話はこれをイメージして
のことだろう。
車道に戻り、灯台に通じる道とは別の道を少し進むと頂上になった。北西の
山に風車が3機見える。伊豆バイオパークのさらに右奥の山だ。伊豆にも風車
ができたなんて知らなかった。今日は無風でほとんど回っていない。
下り始めると何台もの原付とすれ違う。細い坂道が多いので原付が活躍する
町なのだろう。下りきると稲取温泉街の案内地図があった。さっきまで見てき
たホテルは温泉街の中心ではなかったようだ。国道はすぐそこだが、せっかく
だから温泉街に寄ってみよう。
温泉街入口にある稲取温泉の看板はさびれており、活気がないように感じた。
稲取温泉は人気低下傾向のようだ。温泉街を抜けて国道に出ようとしたが、通
りかかった若い女中さんに尋ねたら、「戻って左に左に曲がってください」と
教えてくれた。少し戻り立ち止まって振り向くと、女中さんは私を気にしてい
たようで、教えてくれた場所から動かずにいた。そこから大声で「左ですよ」
と言う。こんな思いやりのある女中さんの温泉が人気ないなんて、と思ってし
まった。
1時間ぐらい稲取をさまよい国道に戻ってきた。そこで目撃したのはその辺
に植わっているアロエをむしり取ってかじるおじさんの姿。薬草になるのは知
っていたが、生で食べられるとは知らなかった。昨日通った富戸辺りから赤い
花をつけたアロエの群生をあちこちで見かけたので、おじさんは食には困らな
いだろう。
12時ごろ河津町に入る。昨日の早足が効いたのか早くも両足筋肉痛になる。
約10キロの荷物を背負っての早足に加え、稲取の山越え、その後もアップダウ
ンの連続、痛むのも無理ない。
途中、いのしし注意の看板があった。ホテルのお上さんが言ったことは本当
のようだ。
サンシップ今井浜の案内板に従い国道を左折する。やがて温泉民宿街になり
15個目の温泉、今井浜温泉到着。今井浜には港があり、釣り客が主な民宿利用
者のようだ。今井浜で一番知名度のある日帰り温泉サンシップ今井浜には何台
ものバイクが止まっていた。
再び国道に合流したところに河津町観光協会。早めに宿を取ろうと思い尋ね
たが、河津町の観光協会のため下田は扱っていないと言われた。残念。
河津海水浴場の手前にはトンネル。それを避けるため左の遊歩道に入ったが、
その入口に一風変わったたくさんの石仏があった。表情が見慣れた石仏と違う
のだ。弱そうな顔をした石仏たちと悪そうな顔をした石仏たちに大別される。
少数派で優しそうな顔、きりっとした顔もあった。
説明板を読むとなんだか悲しくなる。昭和44年8月、当時中学2年の男性が交
通事故で不慮の死をとげた。親友33名が冥福を祈って地蔵菩薩を作り、ここに
建てたそうだ。地蔵菩薩を作ったことも、ここに建てたことも今の世の中では
想像し難い。当時の土地柄がなんとなく想像できる。また似たような顔が多か
ったのは故人をモデルにしたからだろう。故人の優しさが想像できる。悪そう
な顔はきっと運転手に対する怒りを表しているのだろう。故人のご冥福を祈り、
暗記している限りの般若心経を唱えながら遊歩道を歩いた。
河津川を渡り、下田まで14キロ。時間は1時30分。下田まで行けるか少し不
安。日が山に遮られ、風が吹き出し寒くなる。後ろを振り返ると、はるか遠く
にびゅんびゅん回っている3機の風車。風が出てきたのは地形のせいではない
ようだ。その右には小さく稲取灯台が見える。これから行く先が遠くに見える
といやになるが、歩いてきたところが遠くに見えると勇気がわく。
相変わらず海沿いのアップダウンが続く道。断崖絶壁があり、入り江があり、
激しく浸食された磯があり、ときどき立ち止まって楽しむ景色があるので厳し
い道も苦にならない。大抵の磯の先端にはどうやって行ったのか、釣り人がい
る。河津川を境に訪れる人の層が変わった。
そこに場違いのように現れたのが亀水族館。入口にある庭は伊豆七島を模し
た石庭になっているが、何パーセントの人がそれに気づくだろうか。歩行者で
ないと気づかないと思う。
2時35分、下田市に入る。下田市街まであと9キロだ。足は痛むがどうやら下
田まで行けそうだ。
下田に入ってすぐに尾ヶ崎ウィングという展望台兼観光案内所があった。こ
こで宿の混み具合が確認できるかと思い聞いてみたら、予約もできるとのこと。
早速お願いして国民宿舎を取ってもらった。もちろん温泉だ。昨日の温泉地帯
と違い下田はそれほど混んでいないようだ。ついでに3キロ先の白浜から旧道
を通って下田市街に行く道を教えてもらった。アップダウンのきつさは国道も
旧道も変わらないそうだ。さらに下田の地図と観光情報も入手。宿を確保し安
心したので、今日初めて腰を下ろして10分弱休憩した。
30分ほど歩くときれいな白い砂浜が見えてきた。海水浴場入口には『環境省
認定日本水浴場88選 白浜中央海水浴場』の大きな看板。100選や50選ではな
くて、何で88選なのだろうか。企画者に四国お遍路経験者がいたのではないか。
すぐ先は16個目の白浜温泉。民宿が連なっているが、下田プリンスホテルも
ここにある。
先ほどもらった地図と説明が分かりやすかったので、それほど迷わず旧道へ
入った。西伊豆松崎の代名詞になりつつあるなまこ壁がこの辺りでも見られた。
中には瓦屋根がなまこ壁風に白と黒になっているものもあったがちょっと気持
ち悪い。
旧道はアップダウンの連続ではなく峠越えだ。峠を越えると左側に寝姿山入
口の案内板。寝姿山のすぐ北を通る道だったようだ。ちなみに寝姿山は下田の
観光紹介でペリーに並んで真っ先に出てくるポイントだ。
やがて17個目の温泉地、下田の街が眼下に見え始めた。4時50分に下田駅到
着。駅で下田観光情報を入手して、すぐ近くの国民宿舎へ向かった。万歩計は
45400歩で30キロちょっと。寄り道が多かったか、歩幅が狭くなったようだ。
12月28日(日) 下田
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