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『あふりかくじらの自由時間』【100】

発行日時: 2007/6/27

 ★.+・゜゜・。☆ ○o.+・゜゜・。○o.++++++++++++++




          『あふりかくじらの自由時間』

                           【100】

                         http://africanwhale.net/

 +++++++++++++・。+★・。・゜゜・☆ ○o.・..+・。★


 「ゼンゼレ、あなたは珍しい鳥。その華やかな羽の色と、優雅な飛び方、
  美しい歌で外国に行ってもきっと目立つにちがいない。
  群れの中でひときわ人目を惹く美しい容貌を備えている。
  そのひとつは肌の色。
  国の中では、あなたはキャラメル色からチャコールグレーまで、
  いろいろな色合いの肌の色を見慣れている。外国人はわたしたちの虹のような
  微妙な色の違いを見分ける目を持っていない。彼らにとっては、わたしたちは
  ひとつの煩わしい黒という色でしかないのだ」
 
          ノジポ・マライレ著 三浦彊子 訳『ゼンゼレへの手紙』


いかがお過ごしですか。

いま、火曜日夜の九時。
毎日のように計画停電があるハラレですが、今夜は停電ではないので
ちゃんとご飯を食べてお茶を淹れ、土日の旅を思い出しているところです。

この、『ゼンゼレへの手紙』というジンバブエの小説を広げながら。


 ☆ ○o.+・゜○o..+・。☆


アフリカにかかわり始めて十年余り。
ほんとうに偶然にわたしの目の前に現れたジンバブエ赴任というチャンスに、
ほんの少し迷っていた自分に、最後の後押しをしてくれたのはこの小説だった。

ノジポ・マライレはジンバブエ人女性。
『ゼンゼレへの手紙』は、以前このメルマガにも書いたように思うが、
アメリカ・ハーバード大学へ留学した娘ゼンゼレに宛てて、ジンバブエの母シリが
書いた長い長い手紙なのである。

ジンバブエという国のこと、歴史や解放闘争のこと、文化のこと、女性として
生きていくということ、アフリカのこと、愛について。
語られることばはほんとうにうつくしく、わたしはこの本を自分の個人的聖書の
ように大切にして、イギリス留学にいくときもかばんに入れていったのだ。

そして、翻訳の仕事も勉強もしたことがある自分としては翻訳本に厳しい目を
持っているつもりだが、この翻訳者の日本語はとてもうつくしく気に入っている。
装丁もきれい。

それだけに、ほんとうに大切な本である。


            ★         ★


この本について語るときりがないのだが、今年、はじめてマニカランド地方を
訪れたとき、この本にゼンゼレたちの「クムシャ(田舎)」として登場する
チャコワという小さな村に実際に足を踏み入れてみた。

小説に描かれていることを、肌で感じてみたいと思ったからだ。


            ★         ★


そして、もうひとつどうしても見たかったものがある。
それが、「寄宿学校のキレネ・ミッション」なのである。

作中でシリは、まだ六歳だったゼンゼレをつれて当時十四歳のファライおじさんを
寄宿学校キレネに送っていったときのことを回想している。
そこで、歴史的に有名な礼拝堂にめぐり合うのである。


 「あなたは笑いながら先に走っていって、その礼拝堂の壁を飾っている壁画の前で
 突然立ち止まった。
 『ママ、ほら!あの天使を見て!』
  わたしもその場に立ち止まった。わたしはそれまでに、尖塔のそびえる、壮麗な
 ゴシック様式の大聖堂や教会を海外で数多く見ていた。けれども、このつつましい、
 小さな礼拝堂ほどわたしの目に美しいと映ったものはない。それまでの人生で
 わたしは黒人の天使を見たことがなかった。

    (中略)

   目にあふれる涙をあなたに見られないように、わたしは顔をそむけた。
  建物のなかにもアフリカ人の姿が溢れていた。川のなかに力強く立ち、
  集まった人々に祝福を与え、説教する洗礼者ヨハネの黒い体。
  長く白い顎ひげを生やし、鼻孔の開いたモーゼはババムクル(おじ)に
  ちょっと似ていて、神の十戒を告げる彼のアフロヘアのカールは
  そのひとつひとつが生きているかのようだった。

  それからある光景が目に入った。
  わたしは思わずいちばん近い信者席に腰をおろし、驚きの目をみはった。
  イエス・キリストその人がいたのだ。縮れた黒髪と、大地のように
  茶色の目をして、深い粘土色の目は哀れむような微笑を浮かべて
  わたしを見下ろしていた。いままでどこに行っていたのだね?
  わたしはずっとここでおまえを待っていたのに、とその目は言っている
  ような気がした」


            ★         ★


このキレネ・ミッションというのがいったいどこにあるのかわかるまで
少し時間がかかったけれど、これがジンバブエ第二の都市ブラワヨの
南に位置することがわかると、旅の準備をした。

ジンバブエに滞在してもう二年近く。
小説に出会って七年か八年くらい。
これが実現する日を、わたしは純粋に楽しみにしていた。

ハラレからブラワヨまで片道約440キロ。
ひたすらまっすぐ道が続く。たったひとりの約5時間のドライブ。
このチャペルを見るために。


            ★         ★


以前ブラワヨに来たときにガイドをお願いした方に今回も案内を依頼して、
ブラワヨから先、約30キロくらいの小さな旅をした。

明るい午前中の日差しのなか、そのつつましいチャペルは木立に囲まれるようにして
小さくつつましやかに建っていた。

1930年代から40年代頃にかけて、チャペルは建てられた。
キャノン・ペーターソンという宣教師が、このミッション・スクールを始めたという。
そして、生徒たちに熱心な美術の教育を施し、この壁画が誕生した。
ほとんどの絵が、当時のものである。


            ★         ★


チャペルは、小説に描かれている通りに、わたしの前に静かに現れた。
藁葺きの屋根、白い壁、色鮮やかな壁画。
なんてうつくしいんだろう、と。


高校時代、ミッション系の女子校に通っていたわたしは毎日礼拝に出ていた。
目にする宗教画のイエスはどれも真っ白な肌とやわらかな栗色の髪をした白人。
どのイエスもだいたい優しい顔をしていたけれど、わたしはどこか、
壁ひとつ向こうからこちらを見られているような、微かな違和感を感じていた。
それもあって、わたしはクリスチャンにはなれないと思っていた。


            ★         ★


チャペルのなか、正面にそのひとはいた。

ほんとうに、優しい目をしてわたしを見ていた。
とても懐かしい表情をして、わたしに語りかけていた。
黒い肌、思慮深く黒い瞳、縮れた髪。

おもわず胸がいっぱいになった。
ほんとうに小説のなかのシリみたいに涙があふれそうになって、少しとまどった。

何か、わたしの人生のなかでずっと探していたものが、ふっと見つかるような
そんな気すらした。

イエス。

このひとこそ、イエスなのかもしれない、と。
この土地の、イエスなのかもしれない。


            ★         ★


学校を案内してくれたひとが、なんとなく無言で出て行ってくれて、
わたしとイエスをふたりきりにしてくれた。

いちばん前のベンチ、当時の彫り物がそのまま残っている古いベンチに
腰掛けてイエスを見上げ、わたしも彼を見つめ話をした。

日曜日の朝、遠くでミッション・スクールの男の子たちがミサの準備をし、
歌が聞こえてくる。この朝に、わたしは光が差し込むうつくしいチャペルにいた。
時間の流れがとまったような、やわらかな空気のなか。

仕事のストレス、キャリアの焦り、人間関係のこじれと深い傷、混乱。
一年前に交通事故にあったことと、死の恐怖。
いま、ほんとうに心がくたびれてしまっている。
複雑にこじれて絡み合った心のなかがほぐれるわけではないのだけれど、
それでも、何か大きな人生の流れの中で、いまここにきているわたしの位置が
見えてくるような気がした。
何かが、わかってしまったように。


            ★         ★


これからもわたしはアフリカに関わっていくし、こんな生き方をしていくであろう。
十年、二十年の時の流れの中で、あのイエスの眼差しをわたしはきっと忘れない。

この一瞬のために、いろんなものが凝縮されていったような、そんな気がした。
そしてこれは宗教的な体験であると同時に、ほんとうに個人的な体験でもある。

だから胸の中にいつまでも大切にしまっておくことにしよう。


 ☆ ○o.+・゜○o..+・。☆


ミッション・スクールでは、たくさんの男の子たちがブレザーの制服をきて、
ミサのための椅子を運んだり、走り回ったりしていました。
中学生くらいかな。
ほんとうにいい子たちでした。

でも、チャペルの壁画は70年近くの時を経てずいぶん傷みがはげしいとか。
その修復の方法を考えなくてはいけないようです。
そして、昨今のジンバブエの経済状況の悪化で、スクール自体も校舎の修理が
ままならない箇所も多く、椅子や机は数が足りていません。


            ★         ★


チャペルの写真はたくさん撮りましたけれども、一部だけブログに上げてあります。
イエスは、遠目に少しみえるだけ。

なんとなく、この大切な瞬間をスポイルしたくないので、イエスの目だけは
はっきり写真を見せることをやめようと思います。
ほんとは、直接会いに行ってもらえるといいなと思いますが。


でも天使は見えるでしょ? http://blog.livedoor.jp/africanwhale 



読んでくださりありがとう。

                         あふりかくじら



『ゼンゼレへの手紙』ノジポ・マライレ著 三浦彊子 訳(翔泳社)
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4881356275/africanwhale0-22


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     『あふりかくじらの自由時間』【100】2007年6月27日発行

 【発行者】 あふりかくじら
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 誰かに届けばよいなと思います。

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*また長くてすみません。やっと100号です。これからもよろしく。






 
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